製造業は5年連続で最も攻撃された業種
IBMのセキュリティ部門X-Forceの年次報告(Manufacturing Diveが2026年2月26日に報道)によると、2025年に製造業はサイバー攻撃全体の27.7%を占め、5年連続で最も攻撃された業種でした。初期侵入の手口は、公開されたアプリケーションの脆弱性の悪用が32%、正規アカウントの悪用が16%、外部リモートサービスが11%でした。
産業制御システムのセキュリティ企業Dragosは、2025年2月25日に公表した年次報告で、産業組織へのランサムウェア攻撃が前年比87%以上増え、被害組織の50%超が製造業だったとしています。産業組織を狙うランサムウェアグループの数は、2023年の50から80に増えました。
2つの報告は調査の対象と期間が違うため、数字を直接比べることはできません。IBMは全業種のインシデント対応の中での製造業の割合、Dragosは産業組織に絞ったランサムウェアの傾向です。共通して言えるのは、製造業が攻撃者にとって「止まると困るので身代金を払いやすい」標的になっていることです。
初期侵入の手口とAI基盤の関係
IBM X-Forceが挙げた上位3つの侵入手口は、いずれもデータ基盤やAIの導入で接点が増える種類のものです。
| 侵入手口(IBM X-Force、2025年) | 割合 | データ基盤・AIで増える接点の例 |
|---|---|---|
| 公開アプリケーションの脆弱性悪用 | 32% | 外部公開したダッシュボード、データ連携用のAPI、VPN装置 |
| 正規アカウントの悪用 | 16% | クラウドのデータ基盤のアカウント、AIベンダーの保守用アカウント、共有アカウント |
| 外部リモートサービス | 11% | 設備ベンダーやAIベンダーのリモート保守接続、常時接続のリモートデスクトップ |
データ基盤とAIの導入で増えるリスク
- 接続点の増加:設備ネットワークとクラウドの間に、ゲートウェイ、ブローカー、中継サーバが入る。それぞれが攻撃の入口になりうる
- 書き込み経路の発生:AIの判定で設備を止めたり設定値を変えたりすると、上位から制御層への書き込み経路ができる
- 認証情報の増加:クラウド基盤、AIツール、外部ベンダーの保守用アカウントが増え、正規アカウントの悪用のリスクが高まる
- 新しい種類の機器:エッジAI機はOSやライブラリを持つ汎用計算機で、PLCより脆弱性の更新頻度が高い
設計段階で入れておく対策
後から対策を足すより、データ基盤の設計段階で入れておく方がはるかに安く済みます。最低限、次の6点を設計書に入れます。
- ゾーンとコンジット:OTからクラウドへの通信はDMZ経由の外向きを基本にし、書き込み経路は別のコンジットとして承認制にする。設計の考え方はIEC 62443とAI・データ基盤を参照
- 公開範囲の最小化:ダッシュボードやAPIをインターネットに公開しない。必要な場合はゼロトラスト型のアクセス制御を通す
- 個人アカウントと多要素認証:共有アカウントを作らず、ベンダーを含めて個人単位のアカウントと多要素認証にする
- リモート保守の時間限定:設備ベンダーやAIベンダーのリモート接続は、申請した時間だけ開け、操作を記録する
- 機器の更新計画:エッジAI機やゲートウェイのOS・ライブラリの更新を、設備の計画停止と合わせて年間計画に入れる
- 停止時の手順:データ基盤やAIが攻撃で止まったときに、ラインを手動判定や従来の検査で動かし続ける手順を決めておく
よくある質問
中小企業も狙われますか?
狙われます。ランサムウェアは無差別に脆弱な機器を探す攻撃も多く、規模は関係ありません。取引先の大企業へ侵入するための踏み台として、中小のサプライヤーが狙われる例もあります。VPN装置やリモート接続の管理から優先して見直してください。
AIそのものが攻撃されることはありますか?
学習データの改ざんやモデルのすり替えによって判定を狂わせる攻撃は、研究では知られています。工場で現実的に優先すべきなのは、モデルの配布経路と保管場所への不正アクセスを防ぐことです。モデルファイルに署名を付け、エッジ機が署名を確認してから読み込む仕組みが有効です。
対策の指針として何を参照すればよいですか?
制御システム向けのIEC 62443と、米国のNIST SP 800-82 Rev.3が代表的です。考え方はNIST SP 800-82 Rev.3とはで扱っています。全社的なAIのセキュリティの論点は製造業AIのセキュリティも参照してください。
