この記事は はじめての製造業AI 第3章「データを整えて製品を選ぶ」の 3-4 です。次に読む:PoCで止まる製造業AIを本番に載せる6つの条件:PoC死の構造的な原因

結論:用途が定型ならパッケージ、工程固有の判断ならスクラッチ

製造業のAIは、用途の「型」がどこまで決まっているかで選び方が変わります。

  • パッケージ製品が向く:外観検査、設備の振動監視、AI-OCR、保護具の未着用検知のように、入力(画像・振動・帳票)と出力(良否・異常の有無・文字)の形が多くの工場で共通している用途
  • スクラッチ開発が向く:自社の工程条件と品質の関係を学ぶ要因分析、自社固有の制約を持つ生産計画、独自の装置の制御のように、工程ごとに入力も判断も違う用途

実際には、パッケージ製品の上で自社向けにモデルを作るなど、両者の中間の形態が増えています。下の5つの基準で、自社の用途がどちらに寄るかを判断します。

判断基準5つ

基準パッケージ寄りスクラッチ寄り
1. 用途の定型度入力と出力の形が多くの工場で共通工程ごとに入力・判断が違う
2. データの特殊性一般的なカメラ画像・振動・帳票独自装置の信号、複数工程の結合データ
3. 連携の範囲単体で完結、または標準的なI/Oで足りるMES・ERP・PLCと深く連携し業務を変える
4. 変更の頻度品種や条件の変更が少ない、または製品が追随できる工程や制約が頻繁に変わり、自社で直したい
5. 費用の構造初期費用を抑え、月額・年額で払いたい初期費用をかけても、長期の総額と自由度を優先
  1. 用途の定型度:外観検査のパッケージは、良品の画像を登録すれば学習できるように作られています。入力と出力が決まっている用途ほど、製品の機能でそのまま賄えます。
  2. データの特殊性:独自の装置が出す信号や、複数の工程のデータを結合して判断する場合、パッケージの入力形式に合わないことがあります。
  3. 連携の範囲:判定結果をMESに戻してロットをホールドするなど、業務と深くつなぐ場合、パッケージの連携機能で足りるかを確認します。足りなければ、その部分だけ開発が必要です。
  4. 変更の頻度:品種や工程が頻繁に変わる工場では、変更のたびにベンダーに依頼するのか、自社で対応できるのかが運用費を左右します。
  5. 費用の構造:パッケージは初期費用が小さく、ライセンス費が続きます。スクラッチは初期費用が大きく、保守費が続きます。3〜5年の総額で比べます。

中間の3つの形態

実務では、純粋なパッケージと純粋なスクラッチの間に、次の3つの形態があります。

パッケージ、設定型、プラットフォーム型、パッケージ+周辺開発、スクラッチの5段階 自由度・自社の作業:小大 パッケージそのまま使う A.設定型自社データで学習・閾値調整 B.プラットフォーム型基盤の上でモデルを内製 C.パッケージ+周辺開発連携・画面を個別に開発 スクラッチ一から開発
パッケージとスクラッチの間にある3つの形態。右に行くほど自由度が上がり、自社で負う作業も増える。
  • A. 設定型:パッケージに自社の画像やデータを登録して学習し、閾値を調整して使う形態です。外観検査のパッケージの多くがこの形で、プログラミングは不要です。
  • B. プラットフォーム型:ベンダーが提供する学習・推論の基盤の上で、自社がモデルを作る形態です。国内では、AIモデルを自社で内製できることを打ち出した外観検査製品もあります(MENOUの「検査AI MENOU」など)。基盤の保守はベンダー、モデルの中身は自社が持ちます。
  • C. パッケージ+周辺開発:AIの部分はパッケージを使い、MESとの連携、現場の画面、帳票などを個別に開発する形態です。AIの判定機能は標準でよいが、業務への組み込みは自社に合わせたい場合に向きます。

中間の形態を選ぶと、初期費用を抑えつつ、自社に合わせたい部分だけに投資できます。どの形態でも、学習データと学習済みモデルを誰が持つかは契約で確認します(AIのベンダーロックインを避ける)。

費用と期間の違い

観点パッケージ(A含む)中間(B・C)スクラッチ
初期費用小〜中中大
導入までの期間短い中長い
年間費用ライセンス費が継続ライセンス+保守保守・改修費
自社に合わせる自由度低い中〜高高い
製品終了・ベンダー撤退のリスク製品の方針に依存基盤部分は依存開発会社に依存(引き継げれば小)

スクラッチ開発は自由度が高い一方で、開発した会社しか中身を分からない状態になると、保守を他社に移せません。ソースコード、学習データ、モデル、ドキュメントの引き渡しを契約で決めておけば、このリスクは小さくできます。

外観検査製品の比較軸は外観検査AI製品の比較軸10項目で整理しています。開発を外注するか内製するかの判断はAIは内製か外注かで扱います。

よくある質問

中小企業はパッケージ一択ですか?

初期費用と社内の体制を考えると、パッケージや設定型から始めるのが現実的です。ただし、自社の強みに直結する工程(独自の加工ノウハウなど)は、将来的に自社でモデルを持てる形態を検討する価値があります。

パッケージの精度が足りない場合、スクラッチにすれば上がりますか?

上がるとは限りません。精度が出ない原因が撮像条件やラベルの揺れにある場合、手法を変えても改善しません。まず原因を切り分け、データの問題を直してからスクラッチを検討します。

パッケージ製品を途中でスクラッチに切り替えることはできますか?

できますが、学習データとラベルを自社で持っていることが前提です。パッケージの中にしかデータが残っていないと、切り替え時に集め直しになります。導入時から、学習に使った画像とラベルを自社のストレージにも保存しておきます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。