実利用6%、2年以内の予定24%:計画と実態の差は4倍

エージェント型AI(Agentic AI)は、指示に答えるだけでなく、目標に向けて複数の手順を計画し、ツールやシステムを操作して実行するAIを指します。製造業での実利用率を示す数字として最も引用されるのが、米国の製造業団体Manufacturing Leadership Council(MLC)が2025年初頭に行った調査です。

Deloitteが2025年9月のレポートで紹介したこの調査によれば、エージェント型AIを現在使っている製造業はわずか6%で、2年以内に使う予定は24%でした。計画は実利用の4倍ありますが、現時点で使っている企業は少数です。

主要な数字を並べると次のようになります。

発表元数字対象・時期
MLC(Deloitteが引用)エージェント型AIの利用6%、2年以内の利用予定24%製造業、2025年初頭
Deloitte 2026 State of AI in the Enterprise約4分の3が2年以内に導入を計画、準備が整ったモデルを持つのは5社に1社全産業、2026年
Deloitte 2025 Future of Manufacturing87%が生成AIパイロットを少なくとも1件開始製造業、2025年
Gartner2027年までにエージェント型AIプロジェクトの40%超が中止されうる全産業の予測、2025年
Gartner(Deloitteが引用)2028年までにエンタープライズソフトの33%がエージェント型AIを内蔵(2024年は1%未満)、日常業務判断の約15%を自律化全産業の予測
McKinsey The state of AI in 2026売上10億ドル超の大企業の40%がAIエージェントをスケール中(前年27%)。全体では約2割97か国1,719人、2026年5〜6月

3社の数字は対象と定義が違う

この表の数字は、そのまま比べられません。MLCの6%は製造業に限った「利用している」の割合で、McKinseyの40%は売上10億ドル超の大企業(全産業)で「スケール中」と答えた割合です。McKinseyの調査全体では、AIエージェントをスケールしているのは約2割でした。

対象企業の規模と「使っている」の定義が違えば、6%と40%が同時に成り立ちます。大企業の一部部門でエージェントを動かしている状態と、製造業全体で工場の業務にエージェントが入っている状態は別物です。

McKinseyの2026年調査は、先端製造(自動車・航空宇宙・半導体)ではエージェントを主にサプライチェーン・在庫管理と製造プロセスで使っていると報告しています。一方で、製造で人員減を報告した割合は、2025年時点の予測の約半分にとどまりました。期待したほど業務が置き換わっていないことを示す数字です。

エージェント型AIを利用している製造業
6%
MLC調査(2025年初頭)、Deloitte Insights(2025年9月)が引用
2027年までに中止されうるエージェント型AIプロジェクト
40%超
Gartner予測(2025年)
AIエージェントをスケールしている企業(全体)
約2割
McKinsey The state of AI in 2026(2026年8月公表)

Gartnerの「40%超が中止」予測が示すもの

Gartnerは2025年、エージェント型AIプロジェクトの40%超が2027年末までに中止されうると予測しました。理由として、コストの増大、事業価値の不明確さ、リスク管理の不備を挙げています。同社はまた、「エージェント」をうたうベンダーのうち実際にエージェント型の機能を持つのは数千社中約130社と推定しており、既存のチャットボットやRPAを「エージェント」と呼び替える動きにも注意を促しています(エージェント・ウォッシングの記事)。

製造業の工場にエージェントを入れる場合、中止要因はさらに具体的になります。MESやERPを操作させる権限設計、誤操作時の責任分界、設備やロットへの影響範囲の管理です。読み取りだけなら失敗のコストは小さいですが、作業指示の発行や設備パラメータの変更まで任せると、1回の誤りが品質事故につながります。

工場でエージェント型AIを進める順番

実利用率が低く中止リスクが高いからといって、何もしないのが正解ではありません。権限の小さいところから始め、効果と事故リスクを測りながら範囲を広げます。

参照のみ、提案、承認後に実行、限定的な自律実行の4段階を左から右へ並べた図 1 参照のみMES・ヒストリアンを読んで答えるリスク:小 2 提案原因候補・対策案を出し人が判断リスク:小〜中 3 承認後に実行指示書・発注を作成し承認で登録リスク:中 4 限定的な自律決まった範囲で自動実行・事後確認リスク:大
工場のエージェント型AIは、読み取りから始めて承認つき実行へ段階的に広げる。
  1. 参照のみ:MES・品質システム・ヒストリアンのデータを読み、自然言語の質問に答える。誤答はあっても、システムの状態は変わりません
  2. 提案:停止原因の候補や対策案を出し、判断は人が行う
  3. 承認後に実行:作業指示や購買依頼の下書きを作り、担当者の承認で登録する。Deloitteも調達担当・生産技術者・生産計画担当による承認ゲートを推奨しています
  4. 限定的な自律実行:影響範囲が明確な定型処理だけを自動で行い、事後に確認する

多くの工場では、1と2で十分な効果が出ます。3以降に進むかどうかは、1と2の段階で誤答率と利用率を測ってから判断します。

よくある質問

製造業のエージェント型AIの導入率はどれくらいですか?

MLCの2025年初頭の調査では、エージェント型AIを使っている製造業は6%、2年以内に使う予定は24%でした。McKinseyの2026年調査では、売上10億ドル超の大企業の40%がAIエージェントをスケール中ですが、これは全産業の大企業の数字で、製造業全体の実利用率とは定義が違います。

Gartnerの「40%超が中止」は製造業の予測ですか?

全産業を対象にした予測です。コストの増大、事業価値の不明確さ、リスク管理の不備が中止の主な理由とされています。製造業では、これに加えて設備やロットへの影響管理が論点になります。

エージェント型AIと生成AIのCopilotはどう違いますか?

Copilotは主に人の質問に答えたり下書きを作ったりする支援役で、最終的な操作は人が行います。エージェント型AIは、目標に向けて手順を組み立て、システムのツールを呼び出して実行する点が違います。ただし製品名だけでは区別できないため、どこまで自動で実行するかを確認します。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。