要件の中身

中国の智能工厂梯度培育(スマート工場の段階的育成)は、工場を基础级・先进级・卓越级・领航级の4段階で認定します(仕組みは智能工厂梯度培育の4段階を参照)。2025年6月の通知の段階では、卓越級に「AI応用の探索」、领航级に「AIの広く深い応用」という定性的な要件が示されていました。

その後、经济日报の2025年12月の報道によると、「智能工厂梯度培育要求(2025版)」で次の数値要件が定められました。

卓越級に求められるAI応用シーンの比率
20%以上
智能工厂梯度培育要求(2025版)、经济日报 2025年12月報道
領航級に求められるAI応用シーンの比率
60%以上
同上
第1弾の領航級15工場でAIが浸透した業務シーンの比率
70%超
工信部・谢存の説明(SMM 2026年1月報道)

海外メディアのCarNewsChinaは2026年6月、この動きを「AIが上位工場の必須の基準になった」と報じています。第1弾の領航級15工場では、AIが業務シーンの70%超に浸透し、垂直領域のモデルが6000超蓄積されたと工信部は説明しています。

何を数えるのか:「シーン」という単位

この要件で数えているのは、AIを使った「応用シーン」(应用场景)の比率です。シーンとは、工場の業務を、設計・計画・生産・品質・設備・物流・エネルギー・安全などの場面に分けた単位を指します。分母は工場の業務シーンの総数、分子はそのうちAIを使っているシーンの数です。

10個の業務シーンのうち、AIを使うシーンが色付きで示され、比率を計算するイメージ図 例:業務シーン10個のうちAI応用が6個 → 60%(領航級の水準) 外観検査AI 予知保全AI 生産計画AI 品質予測AI エネルギーAI 安全監視AI 物流搬送自動化のみ 作業指示MES 調達ERP 設計変更PLM シーンの切り方・数え方の詳細は公開情報では確認できない(図は当サイトによる説明用の例)
AI応用シーン比率の数え方のイメージ。業務をシーンに分け、AIを使うシーンの割合を出す。

要件が工場の取り組みに与える影響

AI応用率を認定の条件にすると、工場はAIを使うシーンの数を増やす方向に動きます。公表されている事例は、この影響を反映していると考えられます。

工場・企業公表されたAIの規模
上汽通用五菱(领航级)運営大模型EOAIを使い、AI応用シーンの比率が75%超
格力(珠海)AIモデル155個を組み込み、管理効率が46%向上
第1弾の领航级15工場AIが業務シーンの70%超に浸透、垂直モデル6000超
大全集团(卓越级)27のシーンで生成設計・デジタルツイン・予知保全を使用
美的・荆州洗衣机工場工厂大脑の下で14エージェントが38シーンを担当

上汽通用五菱の75%超は、領航級の要件60%を上回る水準です。モデル数(格力の155個、15工場で6000超)が公表されるのも、シーンの数を積み上げる評価の仕組みを反映していると見られます。

一方で、比率を満たすために、効果の小さいシーンにまでAIを入れる動機が生じる可能性もあります。これは推測ですが、数値目標を持つ政策に一般的に見られる副作用です。

地方の側にも、この要件に合わせた動きがあります。2026年度の培育行動の通知は、地方政府に工業AIエージェントの開発支援を求めており、AI応用率の要件と地方の支援策がセットで動いています。

日本の工場が自社の評価に応用するには

日本のスマート工場の施策には、AIの導入率を数値で要件にした制度はありません。中国の仕組みをそのまま持ち込む必要はありませんが、「業務シーンを棚卸しし、AIの適用状況を可視化する」という考え方は、自社の取り組みの評価に使えます。

もう1つの示唆は、AIを多数のシーンで使うには、シーンをまたいで共通に使えるデータ基盤が必要だという点です。領航級の工場が6000超の垂直モデルを運用できているのは、モデルごとにデータを集め直すのではなく、工場全体のデータが統合されているからだと考えられます。AIの数を増やす前に、MES・設備・品質のデータを共通の構造で持つことが前提になります(MESとAIの関係)。

よくある質問

AI応用率の要件は中国の工場すべてに課されますか?

いいえ。要件は智能工厂の上位認定(卓越級・領航級)を受ける場合の条件です。認定を受けない工場や、基础级・先进级には、AI応用率の数値要件は確認されていません。

日系の中国工場がこの認定を目指す意味はありますか?

認定が補助・表彰や地方政府との関係に結び付くため、現地での事業環境に影響する可能性はあります。一方で、認定の要件に合わせてAIのシーンを増やすことが、工場の競争力にとって最善とは限りません。認定の便益と、自社の優先テーマを比べて判断します。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。