紙・印刷の3つの課題とAIの対応

製紙(抄紙・塗工・加工)と印刷(オフセット・グラビア・フレキソ・デジタル)は工程が違いますが、高速で流れる連続ラインであること、品種切替が多いことは共通しています。AIの使い道は3つに整理できます。

用途対象工程何を予測・判定するか主なデータ
紙切れ予測抄紙機、塗工機、加工機(巻取・スリット)紙切れが起きやすい状態と、避けるための速度・張力速度、張力、水分、温度、紙切れ履歴
印刷欠陥検査印刷機、検品工程汚れ、かすれ、見当ずれ、色ずれ印刷画像、基準画像(版データ)
段取り削減印刷機、製袋・加工機品種切替の順序、色合わせの時間受注、版・インキの情報、段取り時間の実績

紙切れ予測:止まる前に速度を下げる

抄紙機や加工機で紙が切れると、通紙のやり直しで数十分以上ラインが止まり、損紙も出ます。紙切れは、原料の配合、水分、張力、速度などの組み合わせで起きやすくなるため、時系列データから「切れやすい状態」を検知する異常検知や予測の対象になります。

AWSは2023年6月の製造業向けブログで、米国の製紙大手Georgia-Pacificの例を紹介しています。加工ラインで紙切れを避ける最適な速度をデータ分析で予測し、利益と資源の使い方を改善したという内容です。公開されているのは取り組みの概要で、紙切れ件数の削減率などの数値は示されていません。

この例で注目すべきは、AIの出力が「紙切れの警報」ではなく「推奨速度」になっている点です。警報だけでは、オペレーターがどう動けばよいか分からず、誤報が続くと無視されます。予測を操作の推奨値に変換し、オペレーターが採否を判断する形にすると、現場で使われやすくなります。誤報の設計は異常検知の誤報を減らすを参照してください。

紙切れ予測に使うデータは、抄紙機や加工機のDCS・PLCに秒単位で残っていることが多い一方、紙切れの記録は日報の手書きにしかない工場もあります。両者を時刻で突き合わせられるように、停止の記録をデジタル化することが最初の作業になります。

印刷欠陥検査:基準画像との比較と過検出

印刷物の検査は、版データ(印刷すべき絵柄)という明確な基準があるため、部品の外観検査より「何が正しいか」を定義しやすい対象です。従来の印刷検査装置は、基準画像との差分を見る方式が主流でした。

AIを使う意味が出るのは、差分方式で過検出が多い場面です。紙の繊維の見え方、インキの微小なにじみ、紙の伸縮による位置ずれなど、品質上問題にならない差を不良として拾ってしまうと、検品員の再確認が増えます。AIで「問題のある差」と「許容できる差」を学習させると、再確認の量を減らせる可能性があります。

判定の方式得意なこと苦手なこと
基準画像との差分(従来型)絵柄の欠落、見当ずれなど明確な差紙の伸縮や地合いによる許容範囲の差
良品学習(AI)不良サンプルが少ない立ち上げ期品種ごとに良品を集め直す必要
不良を学習(AI)汚れ・かすれの種類分けまれな不良は学習データが集まらない

多品種小ロットの印刷では、品種ごとに良品画像を集めてAIを学習し直すのは現実的ではありません。基準画像との差分で候補を出し、その候補をAIで分類する二段構えにすると、品種切替のたびの学習を減らせます。この考え方は多品種少量生産でAIを使う工夫にも通じます。

印刷検査で差分とAI分類を組み合わせる流れ 印刷画像 版データ(基準) 差分検出候補を広めに拾う AI分類許容差か不良か 不良:除去・記録 判断保留:人が確認
印刷検査の二段構え。差分で候補を出し、AIで許容できる差を除く。

段取り削減:品種切替の順序を最適化する

印刷や製袋の現場では、インキの色替え、版の交換、紙幅の変更のたびに段取りが発生します。段取り時間は前後の品種の組み合わせで大きく変わる(淡色から濃色は短く、濃色から淡色は洗浄が必要で長い)ため、受注の並べ方で総段取り時間が変わります。これは順序依存の段取り時間を持つスケジューリング問題で、数理最適化の得意分野です。手順は段取り替え順序の最適化で解説しています。

製紙でも同じ構造があります。抄紙機で坪量(紙の重さ)や色の違う銘柄を切り替えるとき、切替の順番で損紙の量と時間が変わります。軽い銘柄から重い銘柄へ、白から色物へといった順番の経験則は現場にありますが、受注の納期や在庫と合わせて最適な順番を決めるには計算の支援が効きます。

前提になるのは、品種の組み合わせごとの段取り時間の実績です。多くの工場では「段取りに何分かかったか」は記録されていても、「何から何への切替か」が残っていません。この組み合わせを記録すれば、最適化の入力になる段取りマトリクスが作れます。

よくある質問

紙切れ予測には何年分のデータが必要ですか

紙切れの発生頻度によります。月に数件しか起きないラインでは、品種や季節を含めて1年分以上の記録がないと、パターンを学習できません。件数が少ない場合は、正常状態からの外れを検知する方式から始めます。

印刷検査装置をAI搭載品に入れ替えるべきですか

現在の装置の過検出と見逃しの件数を記録し、問題がどちらにあるかを確認してから判断します。過検出が多いだけなら、後段にAI分類を追加する方法もあります。

色合わせの時間もAIで短縮できますか

過去のインキ配合と測色値のデータがあれば、目標色から配合候補を予測するモデルは作れます。紙の種類や印刷機ごとの差を入力に含められるかが精度を左右します。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。