時系列異常検知の方式は大きく4つ

設備の振動・温度・電流、工程の圧力・流量などの時系列データから「いつもと違う」状態を見つけるのが時系列異常検知です。手法は数多くありますが、考え方で分けると次の4つになります。

方式代表的な手法考え方向いている場面弱点
統計的手法移動平均±kσ、EWMA、CUSUM値や平均のずれを統計的に判定単変量、ゆっくりした変化の検知多変数の関係の崩れは見えない
予測残差型ARIMA、LSTMなどによる予測次の値を予測し、実測との差が大きければ異常周期性やトレンドがある系列予測が難しい系列では誤報が増える
再構成型オートエンコーダ、PCA正常データで圧縮・復元を学び、復元誤差が大きければ異常多変量、相関の崩れ学習データの選び方に強く依存
距離・密度型KNN、LOF、Isolation Forest、行列プロファイル正常データ(または部分系列)との距離や密度で判定形状の異常、まれなパターン計算量、運転モードの扱い

どれが優れているかは、データの性質で変わります。

統計手法で基準を作った後、単変量か多変量か、周期性があるか、形状の異常かで方式を選ぶ判断フロー 1. 統計手法で基準を作る 2. 運転モードごとに分ける 3. 見たい異常は何か 変数間の関係の崩れ→ PCA・再構成型 周期・トレンドからの逸脱→ 予測残差型 波形の形の異常→ 距離型・行列プロファイル
時系列異常検知の方式の選び方。まず統計手法で基準を作り、データの性質に応じて方式を足す。

大規模評価が示した「万能な手法はない」

時系列異常検知の手法を大規模に比較した研究として、ドイツのハッソ・プラットナー研究所のSchmidlらによる評価(PVLDB, 2022年)があります。71の異常検知アルゴリズムを967の時系列で比べたこの評価の主な結果は次のとおりです。

比較の規模
71手法×967系列
Schmidl, Wenig, Papenbrock, PVLDB 15(9), 2022
最もコスト対効果がよかったDWT-MLEADの平均AUC-ROC
0.83
同評価(1点あたり2.2ms)
再構成型の多くの手法のAUC-ROC
0.5付近
同評価。0.5はランダムな判定と同程度
  • どのデータにも最適な手法はなかった
  • 教師あり手法が、教師なし・半教師あり手法を上回ることもなかった
  • KNNやSubsequence LOFなどの距離ベースの手法が頑健で有効だった
  • 周期的な系列は非周期的な系列より、単変量は多変量より検出しやすかった

この結果は、最新のディープラーニング手法を選べば精度が出る、という期待に対する注意になります。評価の詳細と読み方は時系列異常検知の評価の落とし穴で扱っています。

製造データで最も効くのは「運転モードの分離」

製造の時系列データには、品種、負荷、回転数、季節などによって「正常」の姿が変わるという特徴があります。品種Aを作っているときの正常な温度は、品種Bでは異常かもしれません。これを1つの正常モデルにまとめると、品種の切替のたびに異常と判定する(誤報)か、閾値を緩めて本当の異常を見逃すかのどちらかになります。

そのため、手法の選択より前に、運転モードごとに正常モデルを分けることが製造では最も効きます。運転モードの情報は、MESの作業指示(品番・レシピ)や設備の運転状態から取れます。時系列データだけを見て運転モードを推定するより、MESから正確な情報を取る方が確実です。

導入の進め方:5つのステップ

  1. 何を異常とするかを決める:設備の故障の前兆か、品質の異常か、センサの故障か。保全や品質の担当者と、検知したい事象を過去の事例で具体的に確認する
  2. データを整える:サンプリング周期、欠損、時刻ずれを確認し、運転モード(品番・負荷)の情報を紐付ける。ヒストリアンの圧縮で変化が丸められていないかも確認する
  3. 統計手法で基準を作る:EWMA、CUSUMなどで過去の異常事例を検知できるか、正常期間の誤報が何件出るかを測る
  4. 方式を選んで比較する:見たい異常の性質に合わせて方式を選び、基準と同じ評価方法で比べる
  5. 運用と評価を設計する:アラームの通知先、対応手順、誤報の記録方法を決め、イベント単位で評価する

ステップ5の評価方法は重要です。点単位の適合率・再現率ではなく、「異常が起きる何分前に検知できたか」「1日あたり何件の誤報が出たか」で評価します。現場が受け入れられるのは1日何件までかを先に決めておくと、閾値の設定が決めやすくなります(異常検知の誤報を減らすを参照)。

予知保全・品質管理との関係

時系列の異常検知は、予知保全と品質管理の両方の基礎技術です。予知保全では設備の振動や電流の異常を故障の前兆として捉え、品質管理では工程条件の異常を不良の前兆として捉えます。どちらでも、検知した後に誰が何をするか(点検の作業指示、ロットの保留)がつながっていなければ効果は出ません。

予知保全の全体像は予知保全AIとはで、品質面での多変量監視は多変量SPC入門で扱っています。

よくある質問

ディープラーニングはいつ使うべきですか

多変量で非線形な関係が強く、統計手法やPCAでは誤報か見逃しが多い場合に検討します。その場合も、統計手法の基準と同じ評価方法で比べ、明確に上回ることを確認してから採用してください。

異常のデータがほとんどありません

多くの異常検知手法は正常データだけで学習できます。ただし評価には異常の事例が必要です。過去の保全記録や品質記録から異常が起きた日時を集め、少数でも評価用に確保してください。

サンプリング周期はどれくらい必要ですか

検知したい異常の速さによります。ゆっくり進む劣化なら分単位でも十分ですが、振動の異常などは高い周波数で取る必要があります。ヒストリアンで間引かれたデータでは捉えられない異常もあるため、目的に合わせて確認してください。

この記事に出てくる用語

用語集(日・英・中)をすべて見る

この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。