違いは「データの単位」「品質の測り方」「制御への関わり方」

組立加工(ディスクリート製造)は、部品や製品を1個ずつ作る製造で、自動車、電機、機械などが当たります。プロセス産業は、原料を連続的またはバッチで化学的・物理的に変化させる製造で、化学、石油、鉄鋼、食品、医薬品の一部が当たります。AIの使い方の違いは、次の3点に集約できます。

観点組立加工(ディスクリート)プロセス産業
1. データの単位個体(シリアル番号)やロット単位。画像と工程ごとの記録が中心連続した時系列。温度・圧力・流量のタグが数百〜数千
2. 品質の測り方個体ごとに全数検査できることが多い(外観、寸法、機能試験)ラボ分析で数時間に1回。リアルタイムには測れない値が多い
3. AIと制御検査・判定が中心。制御に介入する場面は少ないソフトセンサーで品質を推定し、運転条件の調整や自律制御に踏み込む
典型的なAI外観検査、組付けミス検知、作業分析、予知保全ソフトセンサー、多変量統計管理、異常検知、最適運転・自律制御
データの紐付けキーシリアル番号、ロット番号、作業指示時刻、バッチ番号、滞留時間を考慮した時間のずれ

違い1:データの単位(個体か連続か)

組立加工では、製品1個ずつにシリアル番号やロット番号があり、どの工程で、どの設備で、いつ加工したかを個体単位で追えます。AIのデータもこの個体単位で集めるのが基本で、外観検査の画像、締付トルクの波形、検査結果を個体のIDで結びます。MES(製造実行システム)の作業実績と品質判定が、そのまま学習データの紐付けキーになります。

プロセス産業では、原料が連続的に流れ、混ざり合うため、「この製品はどの時点の温度で作られたか」を個体で追えません。代わりに、各工程の滞留時間を考慮して時刻をずらしながらデータを結びます。化学プロセスの異常検知・診断の定番ベンチマークであるTennessee Eastmanプロセス(1993年)は、52の測定変数と21種類の故障タイプを持つ連続時系列のデータで、プロセス産業のデータの典型的な姿を表しています。

違い2:品質の測り方とソフトセンサー

組立加工では、外観や寸法を全数検査できることが多く、正解ラベルが個体ごとに付けやすい環境です。外観検査AIが組立加工で先に普及したのは、この条件がそろっているからです。

プロセス産業では、濃度・粘度・物性などの品質値をラボで分析するため、結果が出るのは数時間に1回です。そこで使われるのがソフトセンサーで、オンラインで測れる温度・圧力・流量から、測りにくい品質値を推定します。2009年の論文で、データ駆動型ソフトセンサーは化学、バイオプロセス、鉄鋼を主な適用分野として普及していると整理されています。課題は、分析値の間隔が粗いこと、プロセスのドリフト、外れ値や欠損で、定期的な再学習が欠かせません。

複数の変数を同時に監視する多変量統計的工程管理(MSPC)もプロセス産業の定番です。主成分分析で変数を圧縮し、Hotellingが1947年に導入したT²統計量などで監視します。変数ごとの管理図と違い、変数間の相関の崩れを捉えられます。

違い3:AIが制御にどこまで関わるか

組立加工のAIは、検査や判定が中心で、設備の制御に直接介入する場面は多くありません。プロセス産業では、AIが運転条件を調整し、制御に踏み込む事例が出ています。

横河電機とJSRは、強化学習AIで化学プラントの蒸留塔を2022年1月17日から2月21日までの35日間(840時間)連続で自律制御し、製品はすべて規格を満たしたと発表しました。ENEOSとPreferred Networksは、2024年5月、ENEOS川崎製油所の原油処理装置で930個の入力センサーと13バルブの同時操作によるAIの常時自動運転を始め、両社は「世界初」としています。

強化学習AIによる蒸留塔の連続自律制御
35日間
横河電機・JSR発表(2022年3月)
AIによる原油処理装置の常時自動運転
930センサー・13バルブ
ENEOS・PFN発表(Impress Watch報道、2024年5月)
プロセス異常診断の定番ベンチマーク Tennessee Eastman
52変数・21故障
Downs & Vogel(1993年)
ISA-95の階層に沿って、組立加工のAIが検査と判定のレベル3中心、プロセス産業のAIがソフトセンサーと自律制御でレベル2に近いことを示す図 L4 ERP L3 MES・品質 L2 PLC・DCS L0-1 設備・センサー 組立加工 外観検査・組付け判定結果をMESのシリアルに記録 カメラ・トルク波形 プロセス産業 ソフトセンサー・MSPC品質の推定と監視 最適運転・自律制御安全範囲と承認が前提 温度・圧力・流量の連続時系列
組立加工とプロセス産業のAIの位置づけ。プロセス産業ではAIが制御層(ISA-95のレベル2)に近づく。

自社がどちらに近いかで、最初のテーマを選ぶ

食品や医薬品のように、前工程がプロセス型(調合・反応)で後工程がディスクリート型(充填・包装)という工場も多くあります。その場合は工程ごとにデータの単位が変わるため、バッチ番号とロット番号の対応を記録する仕組みが、工程をまたぐ品質分析の前提になります。

よくある質問

ソフトセンサーとは何ですか

オンラインで測れる温度・圧力・流量などから、ラボ分析でしか測れない濃度や物性を推定するモデルです。分析結果を待たずに品質の変化に気づけるため、プロセス産業で広く使われています。

プロセス産業でも外観検査AIは使えますか

使えます。フィルムやシートの表面欠陥、包装工程の外観、異物検査などは画像を使います。ただし工場全体で見ると、連続時系列のデータを使うAIの比重が組立加工より大きくなります。

AIによる自律制御はどこまで実用化していますか

横河電機とJSRの35日間の蒸留塔の自律制御や、ENEOSとPFNの原油処理装置の常時自動運転など、実プラントでの事例が出ています。いずれも安全範囲の制約と運転員による監督を前提にした運用です。

この記事に出てくる用語

用語集(日・英・中)をすべて見る

この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。