ソフトセンサーは「測れない値」を「測れる値」から推定する

ソフトセンサー(仮想センサーとも呼ばれます)は、物理的なセンサでは直接測れない、または測るのに時間やコストがかかる品質値を、オンラインで取れる工程データから推定するモデルです。

典型的な対象は次のような値です。

  • 化学プロセスの製品濃度、不純物濃度、粘度、分子量
  • 蒸留塔の塔頂・塔底製品の組成
  • 鉄鋼の材質(硬さ・強度)や、焼結・圧延後の物性
  • 発酵プロセスの菌体量や生成物濃度

KadlecらがComputers & Chemical Engineering誌(2009年)に発表したレビューは、データ駆動型ソフトセンサーが、測定の難しい重要なプロセス変数の推定とプロセス監視の手段として普及しており、主な適用分野は化学、バイオプロセス、鉄鋼だとしています。

効果は、分析待ちの時間に品質のずれを見つけられること、分析回数を減らせること、推定値を制御(例えば濃度一定制御)に使えることの3つです。

温度・圧力・流量のオンライン計測値がソフトセンサーモデルに入り、推定品質値を出力し、ラボ分析値との照合で再学習するループ 温度(秒単位) 圧力(秒単位) 流量(秒単位) ソフトセンサーPLS / GP / JIT 推定品質値監視・制御に使用 ラボ分析値(数時間に1回) 照合・補正・再学習
ソフトセンサーの構成。オンライン計測値から品質値を推定し、ラボ分析値が出たら照合して補正する。

ソフトセンサー特有の難しさ:4つの課題

ソフトセンサーは回帰モデルの一種ですが、製造現場では次の4つの課題が精度を大きく左右します。

課題何が起きるか対処
ラボ値のサンプリングが粗い学習データの対(計測値と分析値)が少ない長期間のデータを使う。分析の頻度を一時的に上げてデータを集める
時刻ずれサンプリング時刻と分析結果の入力時刻が混同されるサンプリング時刻を記録し、工程の滞留時間分ずらして対応させる
プロセスのドリフト触媒劣化、熱交換器の汚れ、原料の変化で関係が変わる定期的な再学習、JIT(Just-In-Time)モデル、移動窓での更新
欠損・外れ値・共線性センサ故障の値や、互いに相関の強い変数で推定が不安定になる前処理での除外ルール、PLSなど共線性に強い手法

この中で最も見落とされやすいのが時刻ずれです。ラボの分析値は、サンプルを採った時刻ではなく、分析が終わってLIMS(ラボ情報管理システム)に入力された時刻で記録されていることがあります。数時間ずれた計測値と対にして学習すると、モデルは意味のない関係を学びます。工場データの時刻合わせは工場データの時刻ずれ対策で詳しく扱っています。

導入の4ステップ

  1. 対象と目的を決める:どの品質値を、何のために(監視、分析削減、制御)推定するかを決める。目的によって許容誤差が変わる
  2. データをそろえる:過去のラボ分析値と、サンプリング時刻に対応する工程データを取り出す。滞留時間を工程技術者と確認し、時刻のずらし幅を決める
  3. モデルを作り評価する:PLSやガウス過程回帰などで学習し、学習に使っていない期間で誤差を評価する。分析値自体の誤差(再現性)と比べて意味のある精度かを確認する
  4. 運用と再学習を設計する:推定値と分析値の差を常時監視し、差が閾値を超えたら再学習する。再学習の担当者、承認、モデルの版の記録を決める

ステップ3では、ラボ分析の測定誤差を確認しておくことが重要です。分析値自体のばらつきより小さい誤差をソフトセンサーに求めても意味がありません。測定誤差の確認は測定系分析(MSA)を参照してください。

半導体ではバーチャルメトロロジーと呼ばれる

半導体の前工程では、同じ考え方を「バーチャルメトロロジー(VM)」と呼び、装置のセンサデータからウェハの膜厚や寸法を推定します。半導体では抜取り測定が前提で、全ウェハを測るとスループットが落ちるため、推定で全数を補う意義が大きい分野です。詳しくはバーチャルメトロロジーで扱います。

化学プロセスでのソフトセンサーと半導体のVMの違いは、データの粒度です。化学は連続プロセスで秒単位の時系列が主ですが、半導体はウェハやロット単位で装置の処理レシピとセンサの要約値を扱います。品質AIの中での位置づけは製造業の品質AIの4領域を参照してください。

よくある質問

ソフトセンサーとAIの予測モデルは何が違いますか

本質的には同じ回帰モデルです。ソフトセンサーという呼び方は、測定器の代わりとして工程監視や制御に組み込む使い方を指しています。そのため、推定の速さ、欠損時の扱い、再学習の運用など、計測器に求められる要件が加わります。

ディープラーニングを使うべきですか

データ数が少ないことが多いため、PLSやガウス過程回帰など少量データで安定する手法から始めるのが一般的です。データが十分にあり、非線形性が強い場合にニューラルネットワークを検討します。説明性の要求も選択に影響します。

JITモデルとは何ですか

Just-In-Timeモデルは、推定のたびに、現在の運転状態に近い過去データを選んで局所的なモデルを作る方法です。プロセスの状態変化に追従しやすく、ドリフト対策としてソフトセンサーで使われます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。