特徴量ストアとは何か
特徴量(feature)は、生のデータをAIの入力に使える形に加工した値です。製造業では、例えば次のようなものが特徴量になります。
- 設備の振動の、直近1時間のRMS(実効値)の平均と最大
- 炉温の、ロットの加工区間における平均・傾き・規格外の秒数
- 品番ごとの、直近30ロットの不良率
- 段取り替えからの経過時間
特徴量ストアは、こうした特徴量の定義(何から、どう計算するか)と計算結果を一か所で管理し、複数のAIモデルや担当者が再利用できるようにする仕組みです。Googleの研究者による論文「Hidden Technical Debt in Machine Learning Systems」(NeurIPS 2015)は、実際の機械学習システムのうち機械学習のコードはごく一部で、周辺のデータ処理などのインフラの方がはるかに大きく複雑だと指摘しています。特徴量を作る処理は、その周辺部分の代表です。
データサイエンティストの時間の使い方を調べたAnacondaの調査(2022年、3,493人)では、データ準備とクレンジングに約38%を使い、モデルの選択・学習・デプロイには約26%しか使っていませんでした。特徴量の再利用は、この準備の時間を減らす手段の1つです。
製造業の特徴量は「品番・設備・時間窓」の3軸で管理する
汎用の特徴量ストアは、顧客IDや商品IDのような1つのキー(エンティティ)で特徴量を管理する設計が多くあります。製造業のデータでは、次の3つの軸を組み合わせて管理すると、再利用しやすくなります。
- 品番・品種の軸:同じ設備でも、品番によって正常な値の範囲が違います。特徴量を品番ごとに分けて持つか、品番を条件として付けておくと、品種の切替で誤報が出にくくなります
- 設備・工程の軸:ISA-95の資産階層(Site/Area/Line/Cell)に沿った設備IDで特徴量を識別します。命名規則が揃っていれば、同じ型式の設備に同じ定義をそのまま当てはめられます。命名規則は設備タグの命名規則を参照してください
- 時間窓の軸:「直近10分」のような固定の時間窓と、「ロットの加工区間」のようにMESの実績で決まる区間の2種類があります。後者は製造業に特有で、MESの開始・終了時刻と結合して計算します
学習と推論で同じ計算を使う
特徴量ストアのもう1つの役割は、学習時と推論時で同じ計算を使うことです。学習時はデータ基盤で過去のデータからバッチで計算し、推論時はエッジやストリーム処理で最新の値を計算する、という構成では、2つの計算の実装が少しずつずれていく問題が起きます。例えば、学習ではロットの区間を作業開始から終了までとしていたのに、推論では直近N分で計算していた、というずれです。
このずれは、AIの精度がPoCでは出たのに本番で出ない原因の1つになります。特徴量の定義を1か所に置き、学習用と推論用の両方の計算をその定義から作ることで防ぎます。
どの規模から必要になるか
特徴量ストアは、専用の製品を入れなくても、考え方として取り入れられます。規模ごとの目安は次のとおりです。
| 規模 | 状況 | 勧める形 |
|---|---|---|
| AIモデル1〜2本 | 1ライン・1用途 | 特徴量の定義を文書とコードで管理する。専用の仕組みは不要 |
| 3〜10本 | 同じ用途を複数ラインに展開、または複数用途 | レイクハウスのゴールド層に特徴量テーブルを置き、定義を版管理する |
| 10本超・リアルタイム推論が多い | 複数工場、エッジ推論が多い | 特徴量ストアの製品やOSSを使い、学習用と推論用を一元管理する |
レイクハウスの3層の中で、特徴量はゴールド層(利用向けに加工した層)に置くのが一般的です。3層の設計は製造業のデータレイク・レイクハウスで扱っています。
4の記録は、MLOpsでモデルの版を管理するときに必要になります。どのモデルの版で判定したかをロット履歴に残す設計は工場向けMLOpsで扱っています。
よくある質問
特徴量ストアを入れればAIの横展開は速くなりますか?
特徴量の再利用で、データ準備の時間は短くなります。ただし、2ライン目の設備のタグ名が違う、品番の体系が違うといった問題があると、再利用できません。命名規則とマスタの統一が前提です。
ディープラーニングで生データを直接入れる場合も特徴量ストアは要りますか?
画像や波形をそのまま入れるモデルでは、手で作る特徴量は減ります。それでも、品番・設備・ロット区間で生データを切り出す処理や、正規化の方法は共有する価値があります。共有するものが「計算した値」から「切り出しと前処理の定義」に変わると考えます。
誰が特徴量の定義を管理すべきですか?
定義のコードはデータエンジニアやAIの担当者が管理し、特徴量が工程の何を表すかの説明は、その工程を知る生産技術や品質の担当者が確認します。物理的に意味のない特徴量が増えると、モデルの説明が難しくなります。
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