DPPは「製品ごとのデータの持ち歩き」

デジタル製品パスポート(Digital Product Passport、DPP)は、製品ごとに、その材料・製造・環境負荷・修理やリサイクルに関する情報をデジタルで記録し、QRコードなどを通じて関係者が参照できるようにする仕組みです。EUが循環経済と製品の持続可能性の政策の一環として導入を進めています。

対象となる製品群、記載が必要な項目、適用の時期は、製品分野ごとの規則や委任法令で決まり、分野によって大きく異なります。この記事では個別の期限には触れず、工場のデータ基盤の側で共通して必要になる準備に絞ります。自社製品が対象かどうか、いつから何が必要かは、欧州委員会の一次情報と、顧客(欧州の輸入者・販売者)からの要求で必ず確認してください。

工場データの視点で見たDPPの要求

DPPに載る情報は製品分野で違いますが、工場のデータから作る必要がある情報は、おおむね次の4種類に分けられます。

情報の種類例工場側の主な出所よくある不足
製品の識別製品ID、型式、ロット・シリアル、製造拠点MES、ERP、刻印・ラベルシリアルを付けていない、ロットが大きすぎる
材料・構成使用材料、含有物質、リサイクル材の比率、部品の構成PLMのBOM、購買、MESの部材投入実績設計BOMと実際の投入が一致しない、サプライヤー情報が紙
製造と環境負荷製造工程、エネルギー使用量、カーボンフットプリントMESの実績、電力計、ヒストリアン設備・製品単位の電力を分けて測れない
使用・修理・廃棄取扱説明、交換部品、分解方法技術文書、保守部品リスト文書が版管理されていない

このうち、工場のデータ基盤が直接関わるのは、上の3つです。製品の識別と材料・構成は、トレーサビリティの基盤そのものです。製造と環境負荷は、MESの稼働実績と電力データを紐付けて、製品1個あたりのエネルギー原単位を出す仕組みが必要になります。この方法は電力データとMES稼働実績を紐付けるで扱っています。

トレーサビリティとAASの延長で準備する

DPPのために新しいシステムを一から作る必要はありません。多くの部分は、品質管理のためのトレーサビリティ基盤と、資産情報の標準表現であるAAS(アセット管理シェル)の延長で準備できます。

PLM、MES、購買、電力データを製品IDで結合し、AASなど標準形式でDPPとして出力する流れ PLM(設計BOM・材料) MES(系譜・実績) 購買(サプライヤー情報) 電力・ヒストリアン 製品IDで結合ロット・シリアル単位版・根拠を記録 DPP出力AASサブモデル等の標準形式
DPPのデータは、既存のMES・PLM・電力データを製品IDで結び、標準の形式で出力する流れで作る。

準備の中心は次の3点です。

  1. 製品IDとロット・シリアルの粒度を決める:DPPが製品モデル単位・ロット単位・個体単位のどれを求めるかで、MESで管理すべき粒度が変わります。品質のためのトレーサビリティの粒度と合わせて決めます。考え方はトレーサビリティ×AIを参照してください
  2. 設計BOMと製造実績を突き合わせる:DPPに載せる材料情報は、設計上の構成ではなく、実際に投入した部材と一致している必要があります。MESの部材投入実績とPLMのBOMの差異を検出する仕組みを作ります
  3. 出力形式を標準に寄せる:DPPのデータを顧客や公的な仕組みに渡す形式として、AASのサブモデルが候補の1つになっています。AASの構造はアセット管理シェル(AAS)とはで扱っています

AIとの関係:同じデータ基盤を二重に使う

DPPの準備で整えるデータは、品質AIや省エネのAIの学習データと重なります。製品単位の部材・工程・条件の紐付けは要因分析の母体になり、製品単位のエネルギーデータは省エネのAIの入力になります。DPPを規制対応のコストとだけ捉えず、AIにも使うデータ基盤の整備として予算化すると、投資の説明がしやすくなります。

一方で、DPPに出すデータの正確さには責任が伴います。AIで推定した値(例:設備ごとに計測していない電力を推定で配分した値)をDPPに載せる場合は、推定であることと推定方法を記録し、顧客や規制当局に説明できるようにしておきます。

よくある質問

日本国内向けの製品しか作っていない場合も準備が必要ですか?

直接の義務はなくても、欧州に輸出する顧客(完成品メーカー)の部品を作っている場合は、サプライチェーンを通じてデータの提出を求められることがあります。顧客からの要求の有無を確認し、要求が来たときに対応できる範囲を把握しておきます。

DPPのためにMESを入れ替える必要はありますか?

多くの場合、入れ替えは不要です。必要なのは、製品IDで各システムのデータを結び付けて出力する仕組みです。ただし、MESでロットやシリアルの管理ができていない、部材投入の記録がないといった場合は、その部分の追加が必要です。

サプライヤーから材料情報を集めるにはどうすればよいですか?

取引先ごとに書式が違うと集計が困難になります。業界団体の様式や、企業間のデータ連携の仕組みを使うことを検討します。企業間データ連携の動きはサプライチェーンのデータ連携で扱っています。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。