図面は「文書」としても「画像」としても扱いにくい

図面は、手順書や報告書と違って、情報の大半が線と記号で表されています。表題欄の図番・品名・材質はテキストですが、形状、寸法、公差、幾何公差(GD&T)、表面粗さ、溶接記号は図形と記号の組み合わせです。普通のRAGのように文字を抽出して検索すると、表題欄と注記しか拾えません。

図面を生成AIで扱う方式は、大きく3つに分かれます。

方式やり方向く用途限界
A. OCRでテキスト化表題欄・注記・寸法値を文字として抽出し、テキストで検索図番・品名・材質・注記での検索形状で探せない。寸法と位置の対応が失われる
B. 画像として埋め込み図面画像をベクトル化し、見た目の近さで検索似た形状の図面探し、類似部品の流用寸法の違いを区別しにくい。数値は読めない
C. PLM・BOM連携PLMの部品属性・BOM構造・変更履歴を検索対象にし、図面は参照先として紐づける部品の使用先、変更履歴、派生品の追跡PLMのデータ品質に依存。図面の中身は読まない

実務では、Cを土台にAかBを組み合わせる構成が多くなります。PLMのBOMで「この部品はどの製品に使われているか」を引き、図面の中身はOCRや画像で補う形です。

方式A:OCRでテキスト化するときの注意

OCR方式は導入しやすい反面、図面特有の読み取りの難しさがあります。手書きの訂正、旧JISの記号、かすれたスキャン、寸法線と重なった文字などです。抽出した文字は、どの寸法線に付いた値なのかという位置の情報を失うため、「φ20の穴の公差は」といった質問には正しく答えられないことがあります。

OCR方式で検索の対象にするのは、表題欄(図番、品名、材質、版数)、注記(熱処理、表面処理、一般公差)、部品表欄に限定するのが現実的です。寸法そのものは検索結果から図面を開いて人が読む前提にします。

方式B:VLMで図面を読ませる研究の到達点

画像とテキストを同時に扱えるVLM(視覚言語モデル)で、図面から直接寸法や公差を読み取らせる研究が進んでいます。2024年11月に公開された研究では、パラメータ数0.23BのVLM(Florence-2)を専門家が注釈を付けた図面400枚で追加学習させ、2D図面からGD&T情報を抽出しました。GPT-4oとClaude-3.5-Sonnetをそのまま使った場合(ゼロショット)の良いほうと比べて、F1スコアが相対値で52.40%高く、ハルシネーション率は相対値で43.15%低かったと報告されています(Khan et al., arXiv 2411.03707)。

追加学習した小型VLMのF1(ゼロショットの大型モデル比、相対値)
+52.40%
Khan et al.(arXiv 2411.03707、2024年11月)
追加学習に使った注釈付き図面の枚数
400枚
同上

この結果から読み取れるのは2点です。汎用の大型モデルをそのまま使うより、自社の図面で少量でも追加学習したほうが読取精度は上がること、そして追加学習しても誤りやハルシネーションはゼロにならないことです。相対値で43%減ったということは、元の誤りの半分以上が残っている可能性を示します。

国内でも、図面を起点にした生成AIの検証が始まっています。オリオン機械とTIMEWELLは、JIS準拠の2D CAD図面から3D CADモデルを自動生成するAIエージェントを2027年1月末まで実証しており、新晃工業とABEJAは2026年9月、空調機などの設計業務でAIによる自動検図の検証を始めました(いずれも報道・各社発表、検証段階)。

方式C:PLM・BOM連携が検索精度の土台になる

図面の検索で最も多い問いは「この部品はどこで使われているか」「この図面の最新版はどれか」「前の版から何が変わったか」です。これらは図面の中身ではなく、PLMの部品構成と変更履歴が答えを持っています。

PLMとBOMを土台に、OCRと画像検索を組み合わせる図面検索の構成 C. PLM・BOM(土台)図番・版数・使用先・変更履歴・承認状態 A. OCRテキスト表題欄・注記・部品表で検索 B. 画像の埋め込み似た形状の図面を探す 寸法・公差は人が図面で確認
図面検索の3方式の組み合わせ。PLM・BOMを土台にし、中身の検索はOCRと画像で補う。

PLM側も生成AIの機能を組み込み始めています。Autodeskは2025年10月、Vaultで部品表(BOM)をFusion ManageのPLMワークフローへ送る自然言語機能を追加しました。Siemensは2025年4月のHannover Messeで、3Dモデル・2D図面・技術仕様を処理する産業用基盤モデルをMicrosoftと共同で発表しています(各社発表)。各社のアシスタントの比較はCAD・PLMの生成AIアシスタント比較で扱っています。

図面の機密性は社内文書の中でも最も高い部類です。クラウドのLLMに図面を渡す場合は、入力データが学習に使われない契約と閉域環境を用意してください。選択肢は製造業のローカルLLM・オンプレ生成AIで整理しています。

よくある質問

3D CADデータを直接生成AIで検索できますか?

3Dモデルの形状で類似部品を探す技術はありますが、生成AIで3Dデータの中身を問い合わせる製品はまだ限られます。現時点では、PLMの部品属性と2D図面・サムネイル画像を検索対象にするのが現実的です。

古い手書き図面も対象にできますか?

スキャンすれば画像検索の対象にはできます。OCRの精度は手書きや旧規格の記号で大きく下がるため、図番と品名だけは人が入力して索引に付けることをおすすめします。

図面から見積を自動で出すことはできますか?

板金や切削の分野では、図面から加工工程や見積を出すサービスが出ています。ただし寸法読取の誤りがそのまま見積の誤りになるため、読取結果を人が確認する工程は残すべきです。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。