Annex III第4項の対象

EU AI Actは、Annex IIIに列挙した用途で使うAIを高リスクとしています。第4項は雇用・労務管理の領域で、次の用途に使うAIが対象です。

  • 採用・選考(求人広告の配信、応募者の選別・評価)
  • 昇進・解雇など雇用条件に影響する判断
  • 個人の行動、性格、属性に基づくタスクの割当
  • 従業員のパフォーマンスや行動の監視・評価

工場に関係するのは、後半の2つです。作業者の動作をカメラで解析して作業時間やミスを個人ごとに記録し、評価や配置に使うAIは、この領域に当たる可能性があります。

適用開始は、2026年7月27日に発効したAI Omnibusにより、2027年12月2日となりました(EU AI Omnibusで期限延期)。

工場のAIで該当しうるもの

AIの使い方個人を特定するか評価・配置に使うか該当の可能性
工程全体のサイクルタイム分析(個人を区別しない)しないしない低い
組立手順の抜けをその場で作業者に知らせるする場合ありしない使い方次第
作業者ごとの作業時間・ミス率を記録し上司が評価に使うするする高い
スキル評価に基づき作業者を工程に自動で割り当てるするする高い
危険区域への侵入を検知して機械を止める(安全目的)しない場合が多いしない第4項ではなく安全部品の論点

※当サイトによる例示です。個別の該当性は条文と今後のガイダンスで判断してください。

分かれ目は、個人を特定して、その結果を評価・配置・処遇に使うかどうかです。同じカメラとAIでも、工程の改善に使うのか、個人の評価に使うのかで扱いが変わります。

動作解析AIの出力の使い道と高リスク該当性 カメラ×動作解析AI同じ技術 工程の改善個人を区別しない集計該当の可能性は低い その場の作業支援記録の扱い次第使い方を文書で限定 個人の評価・配置Annex III第4項高リスクの可能性が高い
同じ動作解析AIでも、出力の使い道で規制上の位置づけが変わる。

欧州拠点を持つ日系企業の盲点

日本の製造業がEU AI Actを検討するとき、関心は輸出する製品(機械に組み込むAI)に向きがちです。作業者監視の論点は、製品ではなく欧州の工場の運営に関わるため、本社の製品法規担当の視野に入りにくい領域です。

さらに、作業分析や組立支援のAIは、日本の工場で効果が出たものを欧州拠点に横展開する形で入ることが多く、日本では問題にならなかった使い方が、欧州では高リスクAIの要件を満たす必要が出てきます。米Retrocausalのような、コンピュータビジョンで組立作業や作業者のエルゴノミクスを解析する製品は、使い方によって該当の可能性があります。同社は3Mで15工場に展開した事例を掲載しています。

作業者の映像は個人データでもあるため、欧州では個人データ保護や各国の労働法制とも重なります。本記事ではAI Actの範囲に絞って扱い、それ以外の法令は現地の専門家に確認することを前提にしています。

高リスクに当たる場合に求められること

高リスクAIとして扱う場合、AIを作って市場に出す提供者だけでなく、AIを使う側の企業(デプロイヤー)にも義務がかかります。作業分析AIを外部から購入して欧州拠点で使う日系企業は、利用者としての立場で義務を確認する必要があります。義務の詳細は条文と欧州委員会のガイダンスで確認してください。

また、AIを使う全ての事業者には、2025年2月2日からAIリテラシーの確保義務(第4条)がすでにかかっています。作業者監視の該当性にかかわらず、AIを扱う現場の管理者や担当者への教育は必要です。

準備の進め方

  1. 欧州拠点で使っている、または導入予定の作業者に関わるAIを洗い出す(作業分析、組立支援、安全監視、シフト・配置の最適化)
  2. それぞれについて、個人を特定するか、出力を評価・配置・処遇に使うかを確認する
  3. 該当の可能性があるものは、利用目的を限定するか、高リスクの要件を満たす前提で準備するかを決める
  4. 個人データ保護や労働法制の確認と一体で、現地の法務・人事と進める

作業分析AIの労使面での扱いは作業分析AIで「監視」と受け取られないために、国内の規制を含む整理は作業者を監視するAIの規制で扱っています。

よくある質問

安全のために作業者を検知するAIも該当しますか

危険区域への侵入を検知して機械を止めるなど、安全確保が目的で個人の評価に使わないAIは、第4項の監視・評価とは性格が異なります。ただし、機械の安全部品としてAnnex I型の高リスクに当たる可能性があり、別の経路で確認が必要です。

日本国内の工場で使う作業分析AIは対象ですか

EU AI Actは原則としてEU域内での使用やEU市場への提供が対象です。日本国内の工場だけで使う場合は対象外ですが、同じ仕組みを欧州拠点に展開する場合は対象になりえます。

匿名化すれば対象外になりますか

個人を特定できない形で集計し、評価・配置に使わないのであれば、第4項の監視・評価に当たる可能性は下がります。ただし、少人数の工程では、匿名化しても個人が推定できる場合があるため、集計の単位に注意が必要です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。