高リスクになる経路は2つ

EU AI Actは2024年7月12日に官報に掲載され、2024年8月1日に発効し、2026年8月2日に一般適用が始まりました。高リスクに分類されたAIには、提供者と利用者に追加の義務がかかります。製造業のAIが高リスクに分類される経路は、次の2つです。

  1. 製品組込み型(第6条1項・Annex I):EUの製品安全法の対象製品の「安全部品」として使われ、その製品が第三者適合性評価を必要とする場合
  2. 用途型(第6条2項・Annex III):Annex IIIに列挙された領域(雇用、重要インフラ等)で使われる場合

製造業に関係が深いのは、Annex IのSection B第21項に機械規則(EU)2023/1230が明記されている点です。機械の安全部品として使われるAIは、1つ目の経路で高リスクになりえます。

第6条1a項:品質管理・最適化目的は安全部品から外れうる

日本語の解説で見落とされがちなのが、第6条1a項です。この項は、性能の最適化、効率化、自動化、品質管理など、安全以外の目的で使われるAIは「安全部品」に該当しないとしています。

製造現場で使われるAIの多くは、この非安全目的に当たります。

AIの用途主な目的安全部品に当たるか(目安)
外観検査AI(出荷品質の判定)品質管理当たらない可能性が高い
予知保全AI(故障の予兆検知)保全の効率化当たらない可能性が高い
生産計画・スケジューリングAI効率化当たらない
エネルギー最適化AI最適化当たらない
人の侵入を検知して機械を止めるAI安全当たる可能性が高い
ロボットの速度・力を人との距離で制御するAI安全当たる可能性が高い

ただし、1b項に例外の例外があります。非安全目的のAIでも、その故障や誤作動が人の健康や安全を脅かす場合は、安全部品から除外されません。たとえば、予知保全AIの判定で安全装置の点検周期を変えている場合や、検査AIが安全上重要な部品(ブレーキ部品など)の欠陥を見逃すと人の安全に直結する場合は、慎重な判断が必要です。

EU AI Act 第6条1項の判定フロー Annex I対象製品(機械等)に組み込むか 安全以外の目的か(第6条1a項) 故障が健康・安全を脅かすか(1b項) 製品が第三者適合性評価の対象か はい はい はい この経路は対象外 いいえ 安全部品に当たらない いいえ 安全機能を担う いいえ はい → 高リスクAI(Annex I型)
製造業AIの高リスク判定の流れ(製品組込み型の経路)。分岐点は安全機能かどうか。

用途型の経路:作業者監視と重要インフラ

製品の安全とは別に、Annex IIIに列挙された用途で使うAIは高リスクです。製造業に関係するのは主に次の2つです。

Annex III第4項は、採用選考、昇進・解雇の判断、個人の行動や属性に基づくタスクの割当、従業員のパフォーマンスや行動の監視に使うAIを高リスクとしています。工場で作業者の動作をカメラで解析し、個人の評価や配置に使うAIは、これに当たる可能性があります。詳しくは作業者を監視するAIはEU AI Actの高リスクで扱っています。

Annex III第2項は、重要デジタルインフラ、道路交通、水・ガス・熱・電力供給の管理・運用の安全部品となるAIを高リスクとしています。電力やガスを扱うプラントの制御に関わるAIは確認が必要です。

適用時期と罰則

高リスクの義務がいつから適用されるかは、2026年7月27日に発効したAI Omnibusで変わりました。Annex III(用途型)は2027年12月2日、Annex I(製品組込み型)は2028年8月2日からです。2026年8月を前提にした解説は古くなっています。詳しくはEU AI Omnibusで期限延期を参照してください。

なお、AIを操作・利用するスタッフのAIリテラシーを確保する第4条の義務は、2025年2月2日からすでに適用されています。高リスクかどうかに関係なく、AIを提供・利用する事業者にかかる義務です。

違反の種類制裁金の上限
禁止されたAI慣行3,500万ユーロまたは全世界売上の7%
その他の義務違反1,500万ユーロまたは3%
虚偽情報の提供750万ユーロまたは1%

いずれも高い方が上限となり、中小企業はいずれか低い方が上限です(第99条)。

日本企業がいま準備すること

欧州に製品を出す機械・装置メーカーと、欧州に工場を持つ企業で、準備の中身が違います。

機械・装置メーカーは、自社製品に組み込んでいるAI機能の一覧を作り、それぞれが安全機能を担うかどうかを判定して記録します。安全機能を担うAIがあれば、2027年1月に適用される機械規則の要件とあわせて準備が必要です(EU機械規則2023/1230とAI)。

欧州に工場を持つ企業は、作業者に関わるAI(動作解析、配置の最適化、評価への利用)を洗い出し、Annex III第4項に当たるかを確認します。輸出企業向けの実務手順はEU AI Actと日本の製造業でも扱っています。

よくある質問

日本国内の工場だけで使うAIもEU AI Actの対象になりますか

EU AI ActはEU市場に出されるAIやEU域内で使われるAIを対象とする法律で、日本国内の工場だけで完結する利用は直接の対象になりにくいと考えられます。ただし、EU向け製品の検査結果をEUの顧客に提供する場合など、域外適用の範囲は条文で個別に確認してください。

外観検査AIは高リスクですか

多くの場合、品質管理目的として第6条1a項により安全部品から外れる可能性があります。ただし、検査対象が安全上重要な部品で、見逃しが人の安全に直結する場合は1b項により除外されない可能性があり、個別の判断が必要です。

整合規格はいつ出ますか

AI Actの整合規格はCEN/CENELEC JTC 21で策定中です。整合規格に適合すれば要件への適合が推定されるため、公表状況を継続的に確認してください。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。