公開情報で分かることと分からないこと

先に結論を書くと、中国の日系企業について公開されているのは、開発体制の移管や生成AIの社内利用といった「経営方針と組織」の情報が中心で、工場の生産ラインでAIを何に使い、どんな成果が出たかという情報はほとんど公開されていません。欧米企業の中国工場がWEFの灯塔工場として数値つきで成果を公表しているのとは対照的です。

企業公開されている情報工場AIの具体例主な出典
パナソニック生成AIの社内利用(DeepSeek・通义千问)、大連子会社の生成AIサーバー、オフライン家電向けSLM、サーボ開発の苏州移管、中国のソフト開発者約2000人、生成AI製品の中国先行投入公開情報では確認できない36氪(2025年9月)、Tiger Brokers(2025年11月)
オムロン中国が最大の海外市場(2024年度売上の20%)、今後3〜5年は数字化・智能制造、グリーン製造、現地イノベーションに注力公開情報では確認できない证券时报(2025年11月)
トヨタ华为・Momenta・小米とのAIエコシステム、中国人チーフエンジニアが率いるRCE制度車両開発が中心で、工場AIの詳細は非公開MarkLines(2025年7月)
安川電機2015年に美的と広東で合弁2社公開情報では確認できないall-about-industries(2025年12月)
(参考)トヨタ银河通用が顧客として丰田を挙げる银河通用側の開示のみ虎嗅(2026年9月)

パナソニック:開発の決定権と生成AIを中国へ

日系企業のなかで、中国でのAI活用について最も多く情報が出ているのはパナソニックです。

36氪の2025年9月12日の記事によると、パナソニック中国では社員が業務でDeepSeekや通义千问(阿里云の大規模言語モデル)を使っており、大連のソフトウェア子会社は自社の生成AIサーバーを構築しました。ネットに接続しない家電向けに、小規模言語モデル(SLM)も開発しています。

開発体制の面では、サーボモーターの主力機種の開発を大阪から苏州へ移し、FA(ファクトリーオートメーション)の中国部門に日本と同等の決定権を与えたとされます。中国のソフト開発者は約2000人です。さらに、生成AIを搭載した製品をまず中国で出し、その後グローバルへ広げる方針で、家電の設計開発はほぼすべて中国で行っていると、同社幹部が2025年11月の中国国際輸入博覧会(CIIE)の場で述べています。

生産投資では、上海奉贤に電子材料の新工場(1.2億元、1万㎡、2027年初量産予定)を2025年9月に着工する計画で、中国のAIサーバー向け電子材料工場にはすでに約15億元を投資したとされます(Yicai Global、2025年9月2日)。これはAIを工場で使う話ではなく、AIサーバーの需要に向けた素材の供給の話です。詳しくはパナソニックの「中国先行」生成AI家電で扱っています。

オムロン・トヨタ・安川電機:方針は出ているが工場の話は少ない

オムロンにとって中国は最大の海外市場で、2024年度の売上の20%を占めます。中国法人の幹部は2025年11月、今後3〜5年は数字化・智能制造、グリーン製造、現地イノベーションに注力すると説明しました(证券时报、2025年11月6日)。顧客の工場向けの事業方針であり、オムロン自身の中国工場でのAI活用の具体例は示されていません。

トヨタ中国は、华为・Momenta・小米とAIのエコシステムを作り、中国人のチーフエンジニアが開発を率いるRCE制度を導入しました(MarkLines、2025年7月18日)。ただしこれは車両開発、特に知能化・電動化に関する体制で、工場のAI活用の詳細は公開されていません。

安川電機は2015年に美的と広東で合弁会社を2社設立しています。美的は2022年にドイツのロボットメーカーKUKAを完全子会社化しており、中国の大手家電メーカーが日独のロボット技術を取り込んできた経緯がうかがえます。

公開情報の厚さの比較 公開情報の厚さ(当サイトの調査範囲) 開発体制の移管厚い 生成AIの社内利用中程度 AI製品の中国先行中程度 工場ラインのAI成果ほぼなし
中国の日系企業のAI関連の動き。開発・製品の移管は公開されているが、工場の生産ラインでのAIは情報が乏しい。

なぜ工場AIの情報が出てこないのか

日系企業の中国工場でAI活用の情報が少ない理由として、次の3つが考えられます(いずれも推測)。

1つ目は、日系企業が工場の生産技術やデータを競争力の源泉と考え、成果を対外的に公表しない傾向があることです。2つ目は、中国のデータ越境規制や重要データの扱いへの配慮から、工場データとAIの関係を外に出しにくいことです。3つ目は、日本本社の主導で導入したAIは日本で発表され、中国拠点の取り組みとして中国語で発信されにくいことです。

いずれにせよ、中国の競合企業や欧米企業の中国拠点が数値つきで成果を発信しているなかで、日系企業の取り組みは外部から見えにくい状態にあります。中国の現地取引先や人材市場に対しては、発信しないこと自体が「取り組みが遅れている」という印象につながりかねません。

日系工場が確認しておくべきこと

2番目と4番目は、中国の規制と直接関係します。データの越境については中国データ越境規定(16号令)と日系工場で、競争環境全体への影響は中国「AI+製造」が日系企業に与える影響で整理しています。

よくある質問

中国の日系工場でAIを使っている具体例はありますか?

今回の調査では、生産ラインでのAI活用を成果つきで公表している日系工場の例は確認できませんでした。確認できたのは、パナソニックの生成AIの社内利用や開発体制の移管など、組織と方針に関する情報です。

中国拠点でDeepSeekや通义千问を使ってよいのですか?

使うかどうかは各社の判断です。ただし、本社の生成AI利用ルールと整合しているか、入力する情報に技術情報や個人情報が含まれないか、データがどこに保存されるかは確認が必要です。

欧米企業の中国工場はAI活用を公表していますか?

施耐德电气(武汉・上海普陀)や西门子数控(南京)などが、WEFの灯塔工場や地方政府の発信を通じて、数値つきで成果を公表しています。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。