380万人の需要、190万人の未充足という推計

Deloitteと米国の製造業団体系の研究機関Manufacturing Instituteは、2024〜2033年の10年間に米国の製造業で最大380万人の新規雇用が必要になり、そのうち約190万人が未充足になりうると推計しています。この数字は、Google Cloudが2025年4月のブログで製造業の課題として引用したことで、AIベンダーの資料にも広く使われています。

2024〜2033年に米製造業で必要な新規雇用
最大380万人
Deloitte・Manufacturing Institute推計(Google Cloud、2025年4月が引用)
うち未充足になりうる人数
約190万人
同上
AIと自動化を技能ギャップ・人手不足の解消に活用
41%
Rockwell Automation第10回調査(2025年6月)
従業員へのスマート製造スキル付与を最大の懸念に挙げた経営幹部
37%
米Traxの記事(2025年12月9日)

推計の前提:「需要の半分が埋まらない」の意味

380万人は、退職による補充と事業拡大による増員を合わせた10年間の雇用需要です。190万人は、その需要に対して人材の供給が追いつかない分の推計です。つまり、新たに必要な人の約半分が埋まらない可能性があるという見立てです。

この種の推計には、次の前提が含まれます。

  1. 製造業の生産能力が計画どおり拡大する(米国内への工場回帰が進む)
  2. 現在の働き方と生産性のまま人員を積み上げる
  3. 若年層の製造業への入職率が大きく変わらない

2つ目の前提がAIと自動化の論点に直結します。生産性が上がれば必要な人数は減り、未充足の規模も変わります。逆に言えば、190万人という数字は「AIや自動化がなければ」の推計に近い性格を持っています。ベンダーの資料で「190万人の不足をAIで埋める」と書かれていても、どの程度を埋められるかは別途示されていません。

AIと自動化で埋められる部分、埋められない部分

Rockwell Automationの第10回調査では、41%がAIと自動化を技能ギャップ・人手不足の解消に使い、48%がスマート製造投資に伴う人員の配置転換・採用を予定していました。人を減らすより、AIで作業を軽くし、人を別の仕事に移す計画が多いことを示しています。

一方、Deloitteは製造業の作業時間の81%超は今後も人間主導で残ると分析しています。また米Traxの記事(2025年12月9日)によれば、経営幹部の37%は従業員へのスキル付与を最大の懸念に挙げています。AIで人手不足の一部は緩和できても、AIを使える人材を育てる問題が新たに生まれます。

領域AI・自動化で緩和しやすい緩和しにくい
検査定型の外観検査、計測値の判定限度見本の判断、新製品の検査仕様づくり
保全異常の早期検知、保全記録の検索現場での分解・修理、突発故障の対応
事務・管理日報・報告書の下書き、データ集計顧客・サプライヤーとの調整
現場作業搬送、単純な投入・取り出し多品種の段取り替え、組立の微調整
技能伝承手順書・ノウハウの検索熟練者の判断そのものの習得

表のうち「緩和しにくい」側には、AIを使いこなす人材が必要な仕事が多く含まれます。人手不足対策としてのAIは、人を置き換えるより、少ない人数で回せる範囲を広げる方向で効きます。

人手不足に対して、作業の置き換え、担当範囲の拡大、育成期間の短縮の3つの効き方を示した図 人手不足米:約190万人未充足 作業の置き換え(搬送・定型検査):効く範囲は限定的 1人あたりの担当範囲の拡大(監視・判断支援):主な効き方 育成期間の短縮(ナレッジ検索・作業ガイド)
人手不足へのAIの効き方は、作業の置き換えより「1人あたりの担当範囲の拡大」が中心になる。

AIベンダーがこの数字を使う理由と、読み手の注意点

190万人という数字は、Google Cloudをはじめ、製造業向けAIを売る企業の資料でよく使われます。人手不足の大きさを示すことで、AIへの投資の必要性を訴えやすいからです。

読み手として注意したいのは、次の3点です。

  1. 数字の出所と販売者が別:推計を出したのはDeloitteとManufacturing Instituteで、引用しているのはAIベンダーです。ベンダーの資料では、推計の前提(工場回帰による増員、10年間の累計)が省かれがちです
  2. 「不足」と「AIで埋められる量」は別:190万人の不足のうち、AIでどれだけを埋められるかの推計は示されていません
  3. 職種の内訳:未充足の中には、技能職、エンジニア、保全技術者など異なる職種が含まれます。AIで支援しやすい職種とそうでない職種があります

自社の人手不足対策としてAIを検討する場合は、マクロの数字ではなく、自社の工程ごとの人員と作業内容から、AIで支援できる作業時間を見積もります。

日本との違い:不足の規模と性格

日本の状況と比べると、不足の性格が違います。経済産業省などの2026年版ものづくり白書によれば、日本の製造業の就業者は1,027万人、人手不足数は7.4万人(必要就業者の0.72%)、生産工程従事者の有効求人倍率は1.60倍とされています(RIETIのBBL資料、2026年6月による)。

米国の推計は工場回帰による増員を含む10年間の需要に対する未充足で、日本の数字は現時点の就業者に対する不足です。定義が違うため直接は比べられませんが、日本では「増員の担い手がいない」より「今いる人の高齢化と退職を埋められない」性格が強いと考えられます(推測)。そのため日本の工場では、熟練者の退職に備えた技能伝承と、少人数で回すための監視・判断支援のAIが優先度の高いテーマになります。

よくある質問

「190万人不足」の出典は何ですか?

DeloitteとManufacturing Instituteの推計で、2024〜2033年に米製造業で最大380万人の新規雇用が必要、うち約190万人が未充足になりうるとしています。Google Cloudが2025年4月のブログで引用しています。

AIで人手不足は解消できますか?

一部は緩和できますが、解消はできません。Deloitteは作業時間の81%超が今後も人間主導で残ると分析しています。AIは定型作業の置き換えより、1人が担当できる範囲を広げる、育成期間を短くするといった形で効きます。

この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。