めっきの品質は液と電流で決まる
電気めっきでは、めっき液に製品を浸し、電流を流して金属の膜を付けます。膜の厚さと質は、液の成分濃度、温度、pH、電流密度、時間で決まります。このうち液の成分は、めっきを続けると消費され、添加剤も分解されるため、定期的に分析して補給する必要があります。
問題は、液の分析が1日に数回、場合によっては週に数回しか行えないことです。分析の間に液の状態がずれると、その間に処理した製品の膜厚や外観にばらつきが出ます。表面処理の工場でAIが効くのは、この「分析と分析の間」を埋めることと、出来上がった製品の膜厚と外観の確認です。
| 課題 | 現状の方法 | AIの使い方 | 前提 |
|---|---|---|---|
| 液管理 | 定期分析と経験による補給 | ソフトセンサーで液の状態を連続推定、補給量の推奨 | 分析値と運転データの時刻合わせ |
| 膜厚 | 抜き取りの膜厚測定 | 電流・時間・液状態から膜厚を予測 | 製品の形状・吊り位置の情報 |
| 外観 | 目視検査 | 色ムラ・しみ・ピットの画像判定 | 限度見本の整備 |
液管理:ソフトセンサーで分析の間を埋める
ソフトセンサーは、オンラインで取れるデータから、ラボで測る値を推定する仕組みです。めっきでは、液温、pH、電導度、通電量(アンペア時)、処理した製品の面積などから、液の主成分や添加剤の濃度の変化を推定します。分析値が出るたびにモデルの予測と比べて補正し、分析の間も液の状態を連続で把握できるようにします。化学・鉄鋼などで使われてきた考え方で、仕組みはソフトセンサーとはで解説しています。
推定した液の状態から補給量を推奨すれば、経験に頼っていた補給の判断を平準化できます。ただし、添加剤の分解や不純物の蓄積は、データから推定しにくい要素です。推定値を過信せず、定期分析は続けて、推定と実測の差が大きくなったらモデルを見直します。
膜厚予測:製品の形状と吊り位置が効く
膜厚は通電量に比例するのが基本ですが、実際には製品の形状で電流の流れ方が変わり、角は厚く、くぼみは薄くなります。同じ治具に吊るした製品でも、治具のどの位置にあるかで膜厚が変わります。このため、膜厚の予測には、通電量と液の状態に加えて、品番(形状)と吊り位置の情報が必要です。
膜厚の測定結果を、品番・吊り位置・通電条件・液の状態と紐付けて記録すれば、位置ごとの膜厚のばらつきを学習し、条件の調整や吊り方の改善に使えます。全数の膜厚測定は難しいため、予測で膜厚が規格の下限に近いものを選び、重点的に測る使い方が現実的です。
外観検査:限度見本の整備が先
めっき品の外観検査では、色ムラ、しみ、ピット(小さな穴)、ざらつきなどを確認します。この中で最も難しいのが色ムラです。光沢や色の微妙な違いは、照明の当て方と見る角度で見え方が変わり、どの程度までを良品とするかが検査員によって違うことがよくあります。
この状態でAIを学習させると、検査員ごとの判定の揺れをそのまま学習してしまいます。外観検査AIを入れる前に、色ムラの程度ごとに限度見本を作り、良品と不良の境界を全員で合わせる作業が必要です。限度見本の整備は、AIの導入とは関係なく、検査員の判定のばらつきを減らす効果もあります。過検出を抑える運用は外観検査AIの過検出を減らす7つの対策を参照してください。
ピットやしみは、色ムラより境界がはっきりしているため、画像AIで判定しやすい欠陥です。外観検査AIを入れるなら、判定基準の合わせやすいピット・しみから始め、色ムラは限度見本の整備が終わってから対象に加える順番が現実的です。検査結果は、品番・吊り位置・処理日時と一緒に記録し、膜厚や液の状態との関係を見られるようにします。外観不良が特定の吊り位置や液の状態に偏っていれば、検査の自動化だけでなく不良そのものを減らす手がかりになります。
撮像では、光沢のある面は照明の映り込みが強く出るため、ドーム照明などで映り込みを抑える工夫が要ります。照明の方式は、製品の形と見たい欠陥に合わせて検証します。
中小の表面処理工場での始め方
めっき・表面処理は中小企業が多い業種で、受託加工のため品番が多く、顧客ごとに要求も違います。大規模なAIの開発より、記録のデジタル化から始めるのが現実的です。
紙の分析記録や検査記録が多い場合は、手書き帳票のデジタル化から始めます。方法は紙の帳票から脱却するにまとめています。
よくある質問
液の自動分析装置を入れればAIは不要ですか
自動分析装置で分析の頻度は上がりますが、分析と分析の間の変化や、添加剤のように自動分析しにくい成分は残ります。自動分析のデータがあれば、ソフトセンサーの精度も上がるため、両者は補い合う関係です。
色ムラは色差計で数値化できないのですか
色差計で数値化できる場合は、その値を基準にするのが最も確実です。ただし製品の形状が複雑で測れない場所がある場合や、光沢のムラのように色差計で捉えにくいものは、画像による判定が必要になります。
受託加工で品番が数千ある場合でも使えますか
品番ごとに学習するのは現実的ではないため、形状の似た品番をグループにまとめ、グループごとに膜厚の傾向を学習します。液の状態の推定は品番に依存しないため、品番が多くても使えます。
