装置メーカーには「自社工場」と「顧客装置」の2つの面がある
半導体製造装置は、1台ごとに顧客仕様が異なる受注生産品で、部品点数が多く、組立と調整に長い時間がかかります。半導体市況の波で受注量が大きく振れるため、生産計画の立て直しが頻繁に発生します。これが1つ目の面である自社工場の課題です。
2つ目の面は、出荷後の装置です。装置は顧客のファブで稼働し続け、稼働ログやアラームを出します。このデータを使えば、保守サービスの高度化や次の製品開発に役立てられます。ただしデータは顧客のものでもあり、使える範囲は契約で決まります。
| 面 | 主な課題 | 効くAI | 制約 |
|---|---|---|---|
| 自社工場 | 多品種・長リードタイムの計画、市況変動 | 制約プログラミングによる計画自動化、需要予測 | 計画マスタの整備 |
| 顧客装置 | 保守の効率、ダウンタイム削減 | 装置ログの異常検知、保守ナレッジ検索 | 顧客とのデータ利用契約 |
| 設計・調達 | 部品の多さ、規制物質調査 | 図面検索、調達データの分析 | 図面・BOMの整備 |
日立ハイテクの生産計画自動化
日立は2023年5月、日立ハイテクの半導体製造装置の生産計画を自動立案するシステムを発表しました。従来は月に最長5日かかっていた立案作業が月1日以内になり、計画時間は約5分の1になったとしています。制約プログラミング技術(同社はMLCPと呼ぶ)による立案自体は1時間以内で終わります。2022年4月に導入し、2023年4月からはSAP S/4HANAと連携して運用しています。導入先は日立ハイテクの笠戸地区(山口県)です(日立製作所、MONOist報道)。
制約プログラミングは、「この工程はこの設備でしかできない」「この部品が届くまで組立を始められない」といった制約を満たす解を探す手法です。装置メーカーの計画は、深層学習のように大量の過去データから学ぶより、制約を明示して解く方が向いています。事例の詳細は日立ハイテクの生産計画自動化で解説しています。
顧客装置のデータ活用:契約が先、AIは後
出荷した装置のログを集めて故障予兆を検知すれば、保守部品の手配や技術者の派遣を前倒しできます。ただし半導体の顧客は、工程条件やレシピに関わるデータの社外持ち出しを強く制限します。装置ログのうち、どの項目を、どの目的で、どこに保存するかを顧客と契約で定めることが、AIの前提になります。
設計・調達の領域では、CADDiが半導体製造装置メーカーで規制物質調査の時間を90%以上削減したと掲げています(社名非公開、同社サイトの記載)。部品点数が多い装置メーカーでは、図面と調達データを検索できるようにするだけで効果が出る業務もあります。
装置メーカーがAIを進める順番
- 自社工場の計画マスタ(工程・工数・制約)をERPとつながる形で整える
- 計画の自動立案で、立案時間と計画変更への追従時間を測る
- 顧客とのデータ利用契約の雛形を作り、装置ログの取得範囲を決める
- 装置ログの異常検知と保守記録を結びつけ、保守サービスに使う
半導体工場側のAIは半導体前工程のAI、受注生産全般の計画は多品種少量・受注生産のAI活用で扱っています。
よくある質問
装置メーカーの生産計画に機械学習は使えませんか
計画の自動化でどれくらいの期間がかかりますか
日立ハイテクの事例では2022年4月に導入し、ERP連携での運用開始は2023年4月でした。マスタの整備と、現場の計画担当者の確認を含めると、1年程度を見込むのが無難です。
顧客の装置データを自社のAI学習に使ってよいですか
顧客との契約次第です。保守目的の利用に限る、匿名化する、他社の学習に使わないなど、条件を明記して合意を取ってください。データ利用の範囲が曖昧なまま集めると、後で使えないデータになります。
