期限はAI Omnibusで動いた:2026年10月時点の適用日

EU AI Actは2024年8月1日に発効し、段階的に適用されています。2025年2月2日に禁止AI慣行とAIリテラシー義務、2025年8月2日に汎用AI(GPAI)モデルの義務が適用され、2026年8月2日に一般適用と執行が始まりました。

ただし、高リスクAIの義務は「AI Omnibus」で延期されました。AI Omnibusは2025年11月に欧州委員会がデジタル簡素化パッケージとして提案し、2026年5月7日の政治合意を経て、2026年7月27日に発効しています。延期後の適用日は次のとおりです。

2024年8月から2028年8月までのEU AI Act適用スケジュール 2024.8.1発効 2025.2.2禁止慣行AIリテラシー 2025.8.2GPAI義務 2026.8.2一般適用透明性・執行 2027.12.2Annex III雇用など高リスク 2028.8.2Annex I製品組込み型 高リスクの期限は2026年7月27日発効のAI Omnibusによる延期後の日付
EU AI Actの主な適用日(2026年10月時点)。製造業に関係の深い高リスク義務は2027年末以降。

2026年8月を高リスク義務の期限として書いている日本語の解説は、Omnibus前の情報です。社内資料を作るときは、日付の出典と時点を確認してください。経緯はEU AI Omnibusで期限延期で詳しく扱っています。

製造業のAIは「すべて高リスク」ではない:第6条の分岐

日本語の解説では「製造業のAIは高リスク」と単純化されがちですが、条文の分岐はもっと細かくなっています。EU向けの製品を持つ企業が最初に確認すべきは、第6条(1)の2つの条件です。

  1. そのAIが、Annex I に挙げられたEU製品法令(機械規則2023/1230など)の対象製品の「安全部品」であるか、それ自体が対象製品か
  2. その製品が、その法令のもとで第三者適合性評価を必要とするか

両方を満たすと高リスクになります。ここで重要なのが、Omnibus後の第6条1a項です。性能の最適化、効率化、自動化、品質管理といった安全以外の目的のAIは、「安全部品」に当たらないと定めています。ただし1b項により、そのAIの故障が健康や安全を脅かす場合は除外されません。

製造業のAIの例第6条での位置づけ(判断の目安)
工場内で使う外観検査AI(品質目的)安全部品に当たらない可能性が高い。ただし自社製品に組み込まない利用の話
予知保全AI(稼働率向上が目的)安全目的でなければ安全部品に当たらない可能性が高い
機械に組み込んだ、人の侵入を検知して停止するAI安全機能そのもの。機械規則の第三者評価の対象になれば高リスク
ロボットの動作を学習で変える協働ロボットの制御AI安全に影響する場合は高リスクの検討対象

上の表は判断の目安で、最終的な判定は製品ごとに整合規格や当局のガイダンスを確認して行います。整合規格はCEN/CENELECのJTC 21で策定中です。

日本の輸出企業が該当しやすい3つのパターン

日本の製造業がAI Actの対象になる経路は、大きく3つです。

  1. EU向けの機械・装置にAIの安全機能を組み込んで輸出する(Annex I、2028年8月2日から)。工作機械、ロボットセル、搬送装置などのメーカーが該当しうる。機械規則との関係はEU機械規則2023/1230とAIで扱う
  2. EU域内の工場で、従業員の採用・評価・タスク割当・行動監視にAIを使う(Annex III第4項、2027年12月2日から)。作業者の動作解析AIが該当しうる。詳しくは作業者を監視するAIの規制
  3. EU域内の工場でAIを使う「デプロイヤー」として、従業員のAIリテラシーを確保する(第4条、2025年2月2日から適用済み)

3は見落とされがちですが、すでに適用されています。EU拠点でAIを使っている場合は、使う人への教育を記録として残しておく必要があります。

2028年までに進める準備の順番

製品組込み型の義務まで2年弱あります。今から次の順番で進めると、整合規格が出そろった時点で対応しやすくなります。

  1. EU向け製品とEU拠点で使っているAIを台帳にする(製品組込み・社内利用の別、目的、安全への影響)
  2. 台帳の各AIについて、第6条の2条件と1a項の例外に当たるかを判定し、判定理由を文書に残す
  3. 高リスクに当たりうるものについて、リスク管理、データ管理、技術文書、ログ、人による監督の各要求に対する現状の差を洗い出す
  4. 機械規則とCRA(サイバーレジリエンス法)の対応と一体で計画する。3つの規則は同じ製品に重なってかかる

台帳とリスク評価の仕組みは、EU向けだけでなく国内の取引先対応にも使えます。社内の仕組みは製造業のAIガバナンス体制で扱っています。

よくある質問

EUに拠点がなく、製品も輸出していなければ関係ありませんか

直接の義務はかかりません。ただし、EU向けに製品を出す顧客にAI搭載の部品や装置を納めている場合、顧客から要求事項として求められることがあります。取引先からの確認には顧客監査・取引先からのAI利用確認への対応の準備が役立ちます。

工場内で使う外観検査AIは高リスクになりますか

品質管理目的で工場内で使うだけであれば、第6条1a項により安全部品に当たらない可能性が高いと考えられます。ただし、その検査が製品の安全に直結し、故障が健康・安全を脅かす場合は除外されないため、用途ごとに判断が必要です。

生成AIを社内で使うだけでも義務はありますか

EU拠点で使う場合は、第4条のAIリテラシー確保の対象になります。また、生成AIの出力を外部に公開する場合は、透明性の義務がかかる場合があります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。