ブルウィップ効果は4つの原因に分けて対処する
ブルウィップ効果とは、需要情報がサプライチェーンの上流へ伝わるにつれて、発注量の変動が増幅される現象です。MIT Sloan Management Reviewに掲載されたLee、Padmanabhan、Whangの論文では、P&Gの紙おむつ(Pampers)の例が挙げられています。店頭の販売はほぼ安定していたのに、卸からP&Gへの発注、P&Gから3Mなど素材メーカーへの発注と、上流に行くほど変動が大きくなっていました。
同じ著者らがManagement Science(1997年)で示した原因は次の4つです。
- 需要シグナル処理:各段階が受け取った発注を「需要」と見なして予測し、安全在庫を上乗せして発注する
- 割当ゲーム:品薄時に供給が按分されると見込み、必要以上に発注する
- 発注のバッチ化:発注をまとめる(月1回の発注、輸送ロット)ことで、発注が間欠的になる
- 価格変動:値引きや値上げ前の駆け込みで、実需と関係なく発注が膨らむ
製造業でAIを使う議論は、このうち1番目の需要シグナル処理に集中します。残り3つは発注ルールや取引条件の問題で、予測精度を上げても消えません。
打ち手1:需要シグナルの部分にAIを使う
需要シグナル処理による増幅は、各段階が「直前の発注」を需要とみなして予測していることから生じます。打ち手は、できるだけ最終需要に近いデータで予測することです。論文が挙げた対策は、POSデータの共有、VMI(ベンダー管理在庫)、リードタイム短縮、EDIです。
部品メーカーの立場では、顧客の内示や受注の推移だけでなく、顧客の生産実績や最終製品の販売動向を入手できるかがまず問われます。入手できない場合でも、受注の推移を「需要」ではなく「顧客の発注行動」として扱い、内示と確定注文の差、内示の修正パターンを特徴量として予測モデルに入れる方法があります。
AIを使う際の要点は、予測値を1点で渡さないことです。予測区間を出し、区間の幅に応じて安全在庫や発注量の上乗せを決めれば、各段階が独自に安全在庫を積み増すことによる増幅を抑えられます。予測区間の使い方は需要予測をS&OPと生産計画につなぐで扱っています。
打ち手2〜4:発注ルールと取引条件で抑える
割当ゲームは、品薄時に「発注量に比例して按分する」ルールがあると起きます。過去の実績比率で割り当てる、発注後のキャンセルに条件を付けるといったルール変更が有効で、AIは関係しません。
発注のバッチ化は、発注コストや輸送ロットが大きいことが原因です。発注頻度を上げる、複数品目を混載する、EDIで発注処理のコストを下げると、発注が平準化されます。ここで役に立つのはAIより最適化計算で、発注ロットと輸送費・在庫費のバランスを計算します。
価格変動による駆け込み発注は、販売側の価格施策の問題です。社内でできるのは、値上げ予告の前後で発注量が実需から乖離していないかを監視することです。
| 原因 | 主な打ち手 | AIの役割 | 担当部門 |
|---|---|---|---|
| 需要シグナル処理 | 最終需要の共有、予測区間つきの予測 | 大きい | 生産管理・営業 |
| 割当ゲーム | 実績比率での割当、キャンセル条件 | ほぼなし | 営業・購買 |
| 発注のバッチ化 | 発注頻度の向上、混載、EDI | 最適化計算が補助 | 購買・物流 |
| 価格変動 | 価格の平準化、駆け込み発注の監視 | 異常検知が補助 | 営業・購買 |
社内の増幅を先に測る
サプライチェーン全体の話に見えますが、増幅は社内でも起きています。営業の受注、生産計画、部品の所要量計算、購買の発注と段階を経るごとに、各部門が独自に余裕を見込むからです。
最初にやるのは、受注量と部品発注量の変動の比を品目群ごとに計算することです。変動係数(標準偏差÷平均)を段階ごとに出せば、どこで増幅しているかが分かります。増幅が購買段階の安全在庫の積み増しにある場合は、在庫最適化AIで安全在庫の決め方そのものを見直します。受注のデータは販売管理、生産計画はMESや生産スケジューラ、発注はERPにあるため、品目コードとBOMで突き合わせる必要があります。
よくある質問
ブルウィップ効果はAIでなくせますか
なくせません。4つの原因のうちAIが直接効くのは需要シグナル処理の部分で、割当ゲーム・発注のバッチ化・価格変動は、発注ルールや取引条件を変える必要があります。
顧客から最終需要のデータをもらえない場合はどうしますか
受注データを「顧客の発注行動」として扱い、内示と確定注文の差や修正パターンを予測モデルに入れる方法があります。あわせて、顧客の生産計画の共有をどの範囲なら受けられるかを営業経由で交渉します。
増幅の大きさはどう測りますか
段階ごとの数量の変動係数(標準偏差÷平均)を求め、下流に対する上流の比を見ます。比が1を大きく超える段階が、増幅が起きている場所です。
