CAE代替モデルは「解析結果を予測する」モデル

CAE代替モデル(サロゲートモデル)は、有限要素法や流体解析といったCAE(コンピュータによる工学解析)の計算を、機械学習モデルで近似するものです。過去に実施した解析の入力(形状、材料、荷重、境界条件)と出力(応力、変位、圧力、流速)の組を学習し、新しい入力に対する出力を予測します。物理方程式を解く代わりに学習済みモデルで推論するため、数時間かかっていた解析を数秒〜数分で返せます。

使い方は、設計の初期段階で多数の案を素早くふるいにかけることです。数百の案を代替モデルで評価し、有望な数案だけを従来のCAEで精密に解析します。

過去の解析結果で代替モデルを学習し、多数の設計案を高速に評価して候補を絞り、従来CAEで最終確認し、その結果を学習データに戻す流れ 過去の解析結果数百〜数千ケース 新しい設計案数百案 代替モデル数秒で予測 候補を絞る上位数案 従来CAE最終判定 最終判定の結果を学習データに追加
CAE代替モデルの使い方。多数の案のふるい分けに使い、最終判定は従来のCAEで行う。

MeshGraphNetsの数字と、その意味

代表的な研究が、DeepMindが2021年のICLRで発表したMeshGraphNetsです。解析で使うメッシュ(形状を細かな要素に分けたもの)をグラフとして扱い、グラフニューラルネットワーク(GNN)で要素間の物理的な相互作用を学習します。元のシミュレータより1〜2桁速いと報告されています。

翼周りの圧縮性流体(Airfoil)のGPUでの高速化
289倍
Pfaffら(DeepMind, ICLR 2021)
構造力学(DeformingPlate)のGPUでの高速化
89倍
同論文
CPUでの高速化
4〜22倍
同論文

高速化の倍率は、問題の種類とハードウェアで大きく変わります。同じ論文でも、円柱周りの流れは35倍で、CPUでは4〜22倍にとどまります。「最大289倍」は最も効いた条件での値で、自社の解析対象でどの程度速くなるかは、比較対象のソルバーと計算機を揃えて測る必要があります。

GNN以外にも、形状をいくつかのパラメータ(長さ、厚さ、角度)で表せる場合は、ガウス過程や勾配ブースティングのような従来の機械学習でも十分な精度が出ることがあります。どの手法を選ぶかは、形状の変化がパラメータで表せるか(パラメトリック)、メッシュ全体が変わるか(非パラメトリック)で決まります。

学習データ:解析結果をどう残しているかで決まる

代替モデルの学習には、数百〜数千ケースの解析結果が必要です。多くの企業では、過去の解析結果は担当者のPCや共有フォルダに散らばり、入力条件と結果の対応が記録されていません。この状態では、学習データを作るところから始めることになります。

学習データとして使えるようにするには、次の項目を揃えて保存します。

  • 入力:形状(CADデータまたはパラメータ)、材料物性、荷重・境界条件、メッシュ設定
  • 出力:評価に使う主要な値(最大応力、最大変位、圧損など)と、必要なら全体の分布
  • メタデータ:解析日、ソルバーと版数、担当者、設計案の識別番号

これはCAEのデータ管理(SPDM)の領域で、PLMと連携させて設計案の版と解析結果を結び付けておくと、代替モデルの学習データとしても再利用しやすくなります。足りない場合は、実験計画法(ラテン超方格など)で入力を散らばらせ、追加の解析を自動で回して学習データを作ります。

評価の仕方:誤差より「選び間違えないか」

代替モデルの評価は2段階で行います。

評価の観点指標判断基準の例
予測の正確さ主要出力(最大応力・変位・圧損)の相対誤差検証ケースで数%以内
設計選択の正しさ候補の順位がCAEとどれだけ一致するか上位案の入れ替わりがない

実務で重要なのは2つ目です。代替モデルの目的は多数の案から有望なものを選ぶことなので、個々の値に多少の誤差があっても、良い案と悪い案の順位を正しく並べられれば役に立ちます。逆に、平均誤差が小さくても、上位案の順位が入れ替わるなら、選び間違えるリスクがあります。

デジタルツインとの関係

代替モデルは、設計段階だけでなく、運用中の設備のデジタルツインにも使われます。物理シミュレーションをリアルタイムで回すのは計算量の面で難しいため、代替モデルで設備の状態を高速に推定する使い方です。品質分析で使うソフトセンサー(測りにくい値を測れる値から推定するモデル)と考え方は近く、ソフトセンサーの記事も参考になります。

運用の注意:解析条件の変更に追随させる

代替モデルは、学習した時点の解析条件(ソルバーの版、メッシュの設定、材料物性の値)を前提にしています。社内の解析標準が変わったら、代替モデルも再学習が必要です。モデルの版と学習データの範囲を記録し、どの設計判断にどの版のモデルを使ったかを残しておくと、後から判断の根拠を確認できます。

よくある質問

代替モデルの学習に必要なケース数の目安は

形状をパラメータで表せる単純な問題なら数十〜数百ケース、メッシュ全体を扱うGNNでは数百〜数千ケースが目安です。入力の次元が多いほど必要なケース数は増えます。

市販のCAEソフトに代替モデルの機能はありますか

主要なCAEベンダーは、機械学習による応答予測やサロゲートの機能を製品に組み込み始めています。自社開発と比べる際は、学習データの持ち出し要否と、学習範囲外の判定機能の有無を確認してください。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。