図面AIが読み取るもの
図面AIは、PDFや画像の2D図面から、製造や調達に必要な情報を構造化されたデータとして取り出します。読み取る対象は大きく4種類です。
| 対象 | 例 | 使い道 |
|---|---|---|
| 寸法・公差 | 外径φ50 ±0.02、長さ120 | 見積(加工工数)、検査規格 |
| GD&T(幾何公差) | 平面度、位置度、データム | 加工方法の判断、検査方法 |
| 表題欄・注記 | 材質、表面処理、熱処理、図番、版数 | 調達、品目マスタ |
| 形状の特徴 | 穴の数、ねじ、溝 | 類似図面の検索、加工工程の推定 |
GD&T(幾何公差)は、形状の許容誤差を記号で表したもので、記号の種類と配置が多様なため、従来のOCRでは読み取りが難しい部分でした。
研究の現状:小型モデルの調整が大型モデルを上回る
2024年11月に公開された研究(Khanら)は、パラメータ数0.23Bの小型VLM(画像と言語を扱うモデル、Florence-2)を、専門家が注釈を付けた図面400枚でファインチューニングし、2D図面からGD&T情報を抽出しました。比較対象はゼロショット(追加学習なし)のGPT-4oとClaude-3.5-Sonnetのうち成績の良い方です。
同じ研究では、適合率と再現率もそれぞれ29.95%、37.75%(相対値)上回りました。汎用の大型モデルにそのまま図面を読ませるより、自社の図面に近いデータで小型モデルを調整するほうが精度が出るという結果です。400枚という規模は、多くの製造業が自社の図面から用意できる量です。
ただし、この数字は研究で用意した図面での結果です。図面の描き方、記号の規格(JIS、ISO、ASME)、スキャンの品質が違えば精度は変わります。
実用例:見積・調達・設計資産の検索
国内では、キャディ(CADDi)が図面を軸にしたサービスを展開しています。図面や設計資産を検索する「CADDi Explorer」、設計レビューと量産準備状況を管理するサービスなどを提供し、同社の公式サイトでは、自動車OEMで10万時間削減、産業機械メーカーで年間調達コスト30%削減といった事例を掲げています(社名非公開、同社発表)。
TIMEWELLの「ZEROCK(図面スタジオ)」は、図面の読み取り、見積作成、2D図面から3D CADへの変換をうたっています。ミスミのmeviyを導入した包装機メーカーの川島製作所(約300人)では、見積から納品までが約2.5カ月から約0.5カ月に短縮し、部品コストが約25%減ったと中小機構の事例集が伝えています。こちらは3D CADデータから見積と加工を自動化するサービスで、図面読み取りとは入口が異なりますが、見積の自動化が調達のリードタイムに効くことを示す例です。
見積・検図での使い方
図面AIの使い道は、読み取った情報をどこにつなぐかで決まります。
見積では、読み取った寸法・公差・材質から加工工数と材料費を推定します。過去の類似図面とその見積・実績原価を検索して並べると、見積担当者の判断材料になります。
検図では、読み取った公差や注記を社内規格やルールと照合し、記入漏れや規格外の値を指摘します。ルールで書ける項目は図面AIと照合ロジックで自動化でき、経験に依存する判断は人に残します。詳しくは自動検図AIで扱います。
製造側では、読み取った公差を検査規格としてMESや検査システムに渡せれば、図面から検査項目を手で転記する作業と転記ミスが減ります。図面番号と版数を品目コードと紐付けて保存しておくことが前提です。
機密情報としての図面の扱い
図面は、自社の設計ノウハウであると同時に、取引先から預かった機密情報でもあります。図面AIをクラウドサービスで使う場合は、図面データがどこに保存されるか、AIの学習に使われるか、委託元との契約で外部サービスへの提供が許されているかを確認してください。ファナックのAI溶接エージェントのように、図面などのデータを他のユーザーのAI学習に使わないと明記する製品も出てきています。自社で小型モデルを調整して社内で動かす構成は、精度だけでなく、この点でも選択肢になります。
よくある質問
生成AI(ChatGPTなど)に図面を読ませるのではだめですか
簡単な図面なら読めることもありますが、研究ではゼロショットの大型モデルより、自社に近い図面で調整した小型モデルのほうが精度が高く、ハルシネーションも少ない結果でした。また、図面を社外のクラウドに送ってよいかは、取引先との機密保持契約を確認する必要があります。
3D CADがあれば図面AIは不要ですか
自社設計の部品で3Dモデルが正本になっていれば、図面を読む必要は減ります。ただし、取引先から受け取る図面や、過去の2D図面しかない部品は多く、見積・調達では図面AIの出番が残ります。
