公表された事実:2023年の実証と2024年の常時運転

ENEOSとPFNの取り組みについて、報道で確認できる事実は次の2点です。

2023年の実証で予測に使った入力センサ数
3,637個
MONOist(2023年8月)。9個のバルブを同時操作し、手動を上回る効率で運転
2024年に常時自動運転を始めた装置の入力センサ数
930個
Impress Watch(2024年5月)。ENEOS川崎製油所の原油処理装置
2024年の常時自動運転で同時に操作するバルブ数
13バルブ
同上。両社は「世界初」としている

2023年8月の報道では、石油プラントのAI自動運転で、3,637個の入力センサから予測し、9個のバルブを同時に操作して、手動操作を上回る効率で運転できたとされています。2024年5月には、川崎製油所の原油処理装置で、930個の入力センサと13個のバルブの同時操作によるAI常時自動運転を始めたと報じられました。

センサ数が実証時より少ないのは、対象装置が異なるためと考えられます(推測)。センサ数そのものより、「実証」から「常時運転」へ段階が進んだことが2024年の発表の要点です。

大規模プラントで常時運転するときの設計論点

以下は公表内容から直接読み取れることではなく、大規模プラントでAIに常時運転を任せる場合に一般に必要となる設計を、当社の見方として整理したものです。

安全計装系を最下層に、DCSと既存制御、AI自動運転、運転員の監視を上に重ねた階層図 運転員:監視・承認・介入AIの操作を見える形で示し、いつでも取り戻せる AI自動運転:多数センサから予測し複数バルブを協調操作操作量の上下限・変化速度の制限の範囲内でのみ動く DCS・既存制御(PID / APC)AIの停止時はここに戻る 安全計装系(SIS):AIから独立AIの判断に関係なく危険時に停止する
大規模プラントのAI自動運転で決めるべき3層。AIの操作範囲、人への引継ぎ条件、安全系の独立性。

1. AIが操作してよい範囲を決める

AIが動かすバルブの数と、それぞれの操作量の上下限・1回あたりの変化幅を決めます。13バルブの同時操作は、バルブ間の干渉を考慮して協調させられることがAIの価値ですが、裏返せば、1本のバルブの誤操作が他に波及する範囲も広くなります。

2. 人に戻す条件を決める

原油の性状が想定外に変わった、センサが故障した、予測と実績が一定以上ずれた、といった条件でAIを切り離し、既存の制御と運転員の操作に戻します。戻す条件が曖昧だと、運転員は「いつ介入すべきか」が分からず、結局すべてを監視し続けることになります。

3. 安全系はAIから独立させる

プラントの安全計装系(SIS)は、AIの判断と無関係に動作するよう分離しておく必要があります。AIは効率の最適化を担い、安全の最終的な担保は従来どおりの仕組みが受け持つ、という役割分担です。

横河電機×JSRとの比較

国内の化学・石油プラントのAI制御には、横河電機とJSRの強化学習による蒸留塔の自律制御(2022年、35日間)もあります。両者を並べると、取り組みの性格の違いが見えます。

観点横河電機×JSRENEOS×PFN
対象化学プラントの蒸留塔製油所の原油処理装置
公表された規模2018年のシミュレータ検証で4バルブ・9センサ値2024年の常時運転で930センサ・13バルブ
公表された期間・段階35日間(840時間)の連続自律制御常時自動運転を開始
手法として公表された内容強化学習(FKDPP)AIによる予測と複数バルブの同時操作

横河電機×JSRは外乱(廃熱の変動)への適応を示した事例、ENEOS×PFNは多数のセンサとバルブを扱う大規模化の事例と読めます。前者の詳細は強化学習AIによるプラント自律制御を参照してください。海外の大手(Honeywell、ABB、GE Vernova)のプロセス産業向けAIとの比較はHoneywell・ABB・GE Vernovaのプロセス産業AIで扱っています。

自社プラントで検討するときの確認項目

特に2と3はデータ基盤の問題です。ヒストリアンの圧縮設定で細かな変動が丸められている、ラボ分析値と工程データの時刻がずれている、といった問題は、制御AIの学習で致命的になります。品質値の推定についてはソフトセンサーを、プロセス産業全体でのAIの使われ方は石油・エネルギープラントのAIを参照してください。

運転員の役割はどう変わるか

AIが常時運転を担う場合、運転員の仕事は「操作」から「監視と判断」に移ります。これは負担が減る一方で、異常時にすぐ手動操作に戻れる技量を保つ必要があるという課題も生みます。手動操作の機会が減ると、いざというときの対応力が落ちる懸念があるためです。

対策として考えられるのは、シミュレータでの定期的な訓練、AIを意図的に切り離した運転の時間帯を設けること、AIの操作の意図を運転員が理解できる表示の工夫などです(いずれも一般論としての提案で、両社の取り組みとして公表されたものではありません)。

よくある質問

このような自動運転は中堅規模のプラントでも可能ですか

規模よりも、データの整備状況と、安全審査・変更管理の体制が条件になります。対象とする操作を限定し、運転員への助言から始めて、効果と安全性を確認しながら操作の自動化に進むのが現実的です。

AI自動運転の効果はどう測るべきですか

エネルギー消費や製品収率などの効率指標と、運転員の操作回数、AIを切り離した回数の両方で測ります。効率が上がっても切り離しが頻繁なら、運用は安定していません。

公表されていない詳細を知る方法はありますか

学会発表や業界団体の講演で詳細が語られることがあります。ただし、手法やモデルの中身は企業秘密であることが多く、公表されている範囲で判断する必要があります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。