射出成形はショット単位のデータが取りやすい工程
射出成形は、品質AIに向いた工程の1つです。成形機は1ショット(1回の射出)ごとに、射出速度、保圧、計量時間、充填時間、ピーク圧力、クッション量、シリンダ温度などを記録できるためです。金型に温度センサや型内圧センサを付ければ、さらに直接的なデータが取れます。
これらのショットごとのデータと、そのショットで成形された製品の検査結果(寸法、ショート、バリ、ヒケ、ウェルドなど)を紐付ければ、「どのような成形の状態のときに不良が出るか」を学習できます。
必要なデータと紐付けの要点
| データ | 内容 | 紐付けの注意点 |
|---|---|---|
| ショットデータ | 射出速度、保圧、充填時間、ピーク圧、クッション量、温度 | ショット番号と時刻で記録する |
| 金型センサ | 金型温度、型内圧 | 多数個取りではキャビティごとに記録できるか |
| 材料 | 材料ロット、乾燥時間・温度、再生材の比率 | 材料の切替時刻を記録する |
| 環境 | 気温、湿度、冷却水温度 | 季節変動の分析に使う |
| 検査結果 | 寸法、外観不良の種類 | どのショット・キャビティの製品かを特定する |
最大の難所は、検査結果とショットの紐付けです。成形品は取り出し後にコンベアで流れ、まとめて箱に入るため、どの製品がどのショットか分からなくなりがちです。対策としては、成形品にショット番号やキャビティ番号を刻印する、取出しロボットで製品を順番どおり並べる、検査を成形機の横で即時に行う、などの方法があります。
ショット単位の紐付けができない場合でも、時間帯単位(例えば1時間ごと)で不良率とショットデータの平均を対応させる分析はできます。ただし精度は下がります。
条件補正は3段階で自動化する
不良予測から条件の自動補正までは、一気に進めずに段階を踏みます。
- 疑わしいショットの選別:予測モデルが不良の可能性が高いと判定したショットの製品を自動で排出・別置きにする。条件は変えないため、リスクが小さい
- 条件補正の提案:予測に効いている変数(例えば金型温度の上昇)を示し、補正の方向と量を作業者に提案する。作業者が判断して条件を変える
- 範囲内での自動補正:提案の妥当性が確認できた条件について、あらかじめ決めた範囲内でのみ自動で補正する
段階3では、補正の上下限、1回の補正幅、補正後に不良が増えた場合に元に戻すルールを決めておきます。条件出しの段階でベイズ最適化を使う方法はベイズ最適化で条件出しで扱っています。
国内外の事例を条件つきで読む
海尔(中国):射出成形のエージェントで金型調整が120分から10分
海尔(ハイアール)は2025年11月の発表で、上海の洗濯機工場で射出成形のエージェントを使い、金型の調整時間が120分から10分になったとしています(同社発表)。対象の金型の種類や数、比較の条件は公開されていません。金型交換後の条件調整(立ち上げ)の時間短縮と読めますが、どこまでを自動化したのかは不明です。
平田精工ジャパン(日本):成形データの一元管理で工程内不良率を低減
中小機構の省力化ナビの事例によると、プラスチック成形の平田精工ジャパン(従業員50人)は、成形データの一元管理、工程能力の算出、CAE流動解析により、工程内不良率を1.36%から0.5%に下げ、試作の人員を12名から8名にしました(令和元〜5年の取り組み)。AIというより、データの一元管理と既存の解析技術の組合せで成果を出した例で、品質AIの前段階として参考になります。
この2つの事例は、規模も手法も異なります。共通しているのは、成形条件のデータを集めて管理することが出発点になっている点です。樹脂成形の業界全体でのAIの使われ方は樹脂・成形メーカーのAI活用で扱っています。
設備データの取り方:成形機メーカーの違いをどう吸収するか
工場に複数メーカーの成形機があると、データの項目名や取得方法がメーカーごとに違います。この違いを吸収する方法の1つが、OPC UAのコンパニオン仕様(業界ごとに定めた共通の情報モデル)です。射出成形機向けのコンパニオン仕様に対応した成形機なら、メーカーが違っても同じ構造でデータを取れます。詳しくはOPC UAコンパニオン仕様の選び方を参照してください。
古い成形機では、通信機能がないため、後付けのセンサや画面の読み取りでデータを取る方法もあります。品質AIの全体像は製造業の品質AIの4領域で整理しています。
よくある質問
外観不良の予測と寸法不良の予測ではどちらが難しいですか
一般に外観不良の方が難しいです。外観不良は種類が多く、判定に人の揺れがあり、発生頻度も低いことが多いためです。寸法は連続値で測定でき、ショットデータとの関係も比較的捉えやすいため、最初の対象に向いています。
型内圧センサは必須ですか
必須ではありませんが、充填の状態を直接捉えられるため、予測精度の向上に効くことが多いです。まず成形機の標準データで始め、精度が足りない場合に型内圧センサの追加を検討するのが費用面で現実的です。
多品種少量の成形工場でも使えますか
品番ごとのデータが少ないと、品番別のモデルは作りにくくなります。材料や金型の特性を説明変数にして品番をまたいだモデルを作る、似た品番をグループ化する、などの工夫が必要です。
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