主要ベンダーの取り組み

PLC(プログラマブルロジックコントローラ)向けのコード生成AIは、制御機器の大手が自社のエンジニアリングツールに組み込む形で提供しています。

提供元製品・取り組み公表されている内容
SiemensIndustrial Copilot(Engineering Copilot、TIA Portal向け)自然言語からSCLコードを生成。SCL生成は約60%高速化と推定(2025年3月)
Rockwell AutomationFactoryTalk Design Studio Copilot自然言語でコード・ラダーロジックの生成、説明、トラブルシュート(2024年12月)
オムロンLaboro.AIと共同開発した設計コード生成AI制御設計者のコーディングを支援(Laboro.AI公表)

Siemensは2025年3月、Industrial Copilotが自然言語からPLCコード(SCL、IEC 61131-3の構造化テキスト言語)を生成でき、生成作業が約60%速くなると推定していると発表しました。2025年5月の発表では、thyssenkrupp Automation EngineeringがIndustrial Copilotを全世界に展開しており、コード品質と開発速度の向上を報告しているとしています。2024年にはSchaefflerもエンジニアリング業務に使ったとされます。

Siemens Industrial CopilotによるSCL生成の高速化(推定)
約60%
Siemens発表(2025年3月24日)
検証ループとLoRA微調整によるPLCコード生成の成功率
47%→72%
LLM4PLC(arXiv, 2024年1月、ICSE 2024)
同研究の専門家評価によるコード品質(10点満点)
2.25→7.75
同論文

60%はSiemens自身の推定値で、測定条件は公開されていません。thyssenkruppの「品質と速度の向上」も定量値は示されていません。

素のLLMでは有効なPLCコードは作れない

汎用の大規模言語モデル(LLM)にPLCコードを書かせると、どの程度使えるのでしょうか。2024年1月に公開された研究「LLM4PLC」(ICSE 2024採録)は、GPT-4やLLaMa2がそのままでは有効なPLCプログラムを生成できないと報告しました。そこで研究チームは、文法チェッカー、コンパイラ、SMV(形式検証ツール)による検証と、ユーザーのフィードバックを組み込んだ反復パイプラインを作り、LoRAによる微調整を加えました。その結果、生成成功率は47%から72%に、専門家評価のコード品質は10点満点で2.25から7.75に上がりました(FischerTechnikの製造テストベッドで検証)。

2024年10月の「Agents4PLC」は、自然言語の要件、人が検証した形式仕様、参照PLCコードを紐付けたベンチマークを作り、LLMのマルチエージェントでコード生成とコードレベルの検証を閉ループにしています。

これらの研究から言えるのは、PLCコード生成で価値を生むのはLLMそのものより、生成したコードを検証して直すループだということです。改善後の72%も、裏を返せば4件に1件以上は有効なコードにならないことを意味します。

仮想PLCで検証してから実機に載せる

生成コードを実機に載せる前の検証には、仮想PLC(ソフトウェアで動くPLC)とシミュレーションが使われます。Audiのベリンガー・ヘーフェ工場は、TÜVの安全認証を受けたSiemensの仮想PLC(S7-1500V)を導入したと報じられています(2025年4月)。

要件の記述、AIによるコード生成、コンパイルと静的検証、仮想PLCとシミュレーションでのテスト、設計者のレビュー、実機での立会い試験の順に進み、各段階で不合格なら生成に戻る流れ 要件の記述I/O・動作仕様 AIが生成SCL・ラダー 静的検証コンパイル・規約 仮想PLC試験シミュレーション 設計者レビュー安全・意図 実機立会い試運転 不合格なら生成または要件記述に戻る。安全PLCのロジックはこの流れの対象外にする
PLCコード生成AIの安全な使い方。生成から実機投入までに複数の検証ゲートを置く。

検証で確認すべきことは次のとおりです。

  • 静的検証:コンパイルが通るか、社内のコーディング規約(命名、コメント、構造)に沿っているか
  • 動作試験:仮想PLCと設備シミュレーションで、正常動作、異常時の動作、非常停止からの復帰を試す
  • 設計者レビュー:コードの意図が要件と一致しているか、想定外の条件分岐がないか
  • 実機での立会い:試運転時に、従来と同じ手順で動作を確認する

生成AIが効く作業、効かない作業

制御設計の業務の中で、生成AIが効果を出しやすい作業と、そうでない作業があります。

効果を出しやすいのは、定型的なファンクションブロックの作成(シーケンス、アラーム処理、データ変換)、既存コードの説明とコメントの付与、他の言語や旧機種のコードからの移植の下書き、エラーメッセージからのトラブルシュートの手がかり探しです。特に、担当者が退職して誰も読めなくなった古いラダーの説明は、技能伝承の観点からも価値があります。

効果を出しにくいのは、設備固有のタイミング調整、複数の機器が絡むインターロックの設計、要件そのものが曖昧な新規設備の制御設計です。要件を言葉で正確に書けない作業は、生成AIでも正確なコードにはなりません。

よくある質問

三菱電機やキーエンスのPLCでも使えますか

主要な製品は自社のエンジニアリングツールに組み込まれているため、対応する機種や言語はベンダーごとに異なります。汎用の生成AIで他社機種のコードを書かせることはできますが、文法や命令の違いで誤りが増えるため、検証の負担が大きくなります。

ラダー図とSCLのどちらが生成しやすいですか

テキストで表現するSCL(構造化テキスト)のほうが、言語モデルにとって扱いやすい形式です。ラダー図は図形の言語のため、内部的にテキスト表現に変換して扱う製品が多いと考えられます。保守する現場がラダーに慣れている場合は、生成結果をラダーで確認できるかも選定の観点になります。

生成したコードの責任は誰が持ちますか

生成AIを使っても、コードの責任は設計者と組織にあります。生成コードをレビュー・承認した記録を残し、従来のコードと同じ品質保証の手続きを通してください。

この記事に出てくる用語

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この特集について

製造業の生成AI、どこまで任せられるか

文書検索、手順書の生成、品質報告のドラフト。人が承認する範囲と任せてよい範囲の線引き 全91本

  1. 製造業の生成AI活用の全体像:業務別12ユースケースと導入の順番
  2. 製造業の社内文書RAG入門:手順書・図面・品質記録を検索する5層構成
  3. Siemens Industrial Copilotの全体像:5系統の提供状況と狙い
  4. 生成AIの情報漏えい対策:製造業が決めるべき入力禁止情報とログ管理の7項目
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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。