品質管理はAIの用途の首位

品質管理は、製造業のAIの用途として最も多く挙がる分野です。Rockwell Automationの2025年の調査(17か国1,560人)では、50%が2025年にAI/機械学習を製品品質に適用する予定と答え、品質管理が2年連続でAIのユースケースの首位でした。日本でも、MONOistの「スマート工場動向調査2026」(2026年6月、有効回答349件)で、関心が高かった技術としてAI画像認識による品質検査が挙がっています。

品質保証部門の業務は、検査、工程の監視、不具合の解析、顧客対応、品質文書の作成・管理にわたります。AIの使い方も、これに合わせて6つに分けられます。

品質保証部門のAIの6つの使い方 従来のAI(判定・予測・分析) 1 外観検査の自動化 2 工程の異常検知・品質予測 3 不良の要因分析 生成AI(検索・文書) 4 クレーム・不具合情報の分析 5 過去の不具合事例の検索 6 品質文書のドラフト作成
品質保証部門のAIの6つの使い方。左の3つは従来のAI、右の3つは生成AIが中心。

従来のAIを使う3つの使い方

1. 外観検査の自動化

カメラ画像から傷・異物・欠けなどを見つけ、良否を判定します。品質保証部門の役割は、判定基準と限度見本を定め、AIの精度目標(見逃し率・過検出率)を決め、並行運用の結果を評価することです。見逃しは流出クレーム、過検出は再検査の工数と歩留まりの損失につながるため、どちらを優先するかの判断は品質保証部門が持ちます。詳しくは 外観検査AIの導入ガイド で扱っています。

2. 工程の異常検知・品質予測

工程の温度・圧力・速度などのデータから、不良が出る前に異常を検知したり、品質を予測したりします。従来の統計的工程管理(SPC)を拡張したもので、複数の変数の相関を考慮できる多変量管理図(Hotelling T²)が代表的な手法です。ラボでしか測れない品質値を、工程データから推定するソフトセンサーも、化学や鉄鋼で使われています。

3. 不良の要因分析

不良率が上がったとき、どの設備・ロット・作業者・工程条件が効いているかを分析します。相関の確認、層別、多変量モデル(PLS、勾配ブースティングとSHAPなど)と進め、最後は実験で検証します。観測データだけで因果を断定しないことが重要です。分析の前提として、測定系の誤差(MSA)が分析に混ざっていないかを確認します。詳しくは 品質AIの導入前にMSAを行う理由 を参照してください。

生成AIを使う3つの使い方

4. クレーム・不具合情報の分析

顧客からのクレームや市場の不具合情報は、自由記述の文章で届くことが多く、件数が増えると分類と傾向の把握に時間がかかります。生成AIで内容を要約・分類し、製品・部位・現象ごとに集計すれば、傾向の変化を早く把握できます。パナソニック コネクトは、社内AIアシスタントで約1,500件のアンケートの分析が9時間から6分になった例を挙げています(同社発表、2023年)。品質の用途ではありませんが、自由記述の大量処理での効果の目安になります。

5. 過去の不具合事例の検索

過去の不具合報告書、8Dレポート、是正処置の記録から、似た事例を探す作業は、熟練者の記憶に頼りがちです。社内文書を検索して回答を作るRAG(検索拡張生成)の仕組みで、過去事例を探せるようにします。日立製作所は、品質保証業務のAIエージェント「品質ナレッジシステム」を2026年6月に提供開始し、自社工場でトラブル対応事例の検索時間を約9割削減したと発表しています(同社発表)。

6. 品質文書のドラフト作成

不具合報告書、是正処置報告(8Dレポート)、検査成績書、作業標準の改訂案などのドラフトを生成AIで作ります。報告書の構成や表現を整える時間は減らせますが、原因の特定や対策の妥当性は人が判断します。詳しくは 生成AIで8Dレポートを作る で扱っています。

用途ごとの必要データと承認責任

使い方必要なデータ承認責任を持つ人主な注意点
1 外観検査良品・不良の画像、判定基準書品質保証の責任者(判定基準と閾値)撮像条件の安定、ラベルの揺れ
2 異常検知・品質予測工程データ、品質判定の実績品質保証・製造(アラーム後の処置)誤報の多さ、運転条件の変化
3 要因分析工程データ、ロット・設備・作業者の実績品質保証・生産技術(対策の決定)相関と因果の混同、測定誤差
4 クレーム分析クレーム記録、市場不具合情報品質保証(分類の確定)個人情報・顧客情報の扱い
5 事例の検索不具合報告書、是正処置記録利用者(回答の確認)文書の電子化と版管理
6 文書のドラフト報告書のテンプレート、過去の報告書品質保証の責任者(文書の承認)ハルシネーション、機密情報

従来のAIを使う1〜3は、工程データと品質判定の実績がロット番号でつながっていることが前提です。MESの品質判定と工程データの紐付けがない工場では、まずトレーサビリティのデータを整えます。詳しくは 品質トレーサビリティのデータ を参照してください。生成AIを使う4〜6は、過去の文書が電子化され、版管理されていることが前提です。

AIの判定根拠の示し方は 説明可能なAI(XAI)とは で解説しています。

よくある質問

品質保証部門がAIを承認するときの基準はありますか

業界共通の基準はまだありません。判定基準書と限度見本の合意、並行運用での見逃し率・過検出率の確認、判定記録の保存、閾値とモデルの変更の承認手続きの4点を、社内の基準として定めるのが現実的です。

顧客にAIで検査していることを伝える必要がありますか

契約や品質協定で検査方法の変更の通知が求められている場合は、伝える必要があります。自動車部品や医薬品など品質要求の厳しい業種では、検査方法の変更に顧客の承認が必要なこともあるため、品質協定を確認してください。

クレーム情報を社外の生成AIサービスに入力してもよいですか

顧客名や個人情報、未公表の製品情報が含まれる場合は、社内のルールで入力を制限すべきです。入力したデータが学習に使われない契約のサービスを選ぶ、社内環境で動かすなどの対策を、情報システム部門と決めてください。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。