なぜ「データの出口」で選ぶのか

MESは、AIにとって学習データの文脈(ロット・品番・工程・設備・作業者)の供給元であり、AIの判定結果を業務に戻す出口でもあります。この2つの役割を果たせるかは、画面の使いやすさではなく、データの持ち方と外部とのつなぎ方で決まります。

導入後に次のような問題が見つかると、AIの取り組みは止まります。

  • データを外に出すAPIがなく、DBを直接読むしかない。その結果、バージョンアップのたびに連携が壊れる
  • 停止理由や不良コードが自由記入で、分析できない
  • 履歴が数か月で消える設定になっており、学習に使える期間がない
  • 外部システムからホールドや作業指示を登録できず、AIの結果を業務に戻せない
  • データを外部に出すと追加ライセンスが必要になる

これらは、選定時に質問すれば確かめられます。

10の質問

MESの提案依頼書(RFP)や、ベンダーとの打合せで、次の10の質問を投げます。回答は「できる・できない」だけでなく、方法と追加費用を書いてもらいます。

#質問確認したいこと要注意の回答
1実績・品質・系譜のデータを外部に出すAPIはありますかREST等の公開API、仕様書の有無「DBを直接参照してください」だけ
2データモデル(テーブル・項目の意味)は文書化されていますか項目定義書、ISA-95との対応「導入時に個別に説明します」
3作業完了・検査結果・停止などをイベントとして配信できますかMQTT・メッセージキュー・Webhookポーリング(定期的な読取)のみ
4外部システムからホールド・作業指示・アラートを登録できますか書込みAPIと権限制御画面操作でしかできない
5履歴データは何年分、どの粒度で保持できますか保持期間、アーカイブ後の取り出し性能のため数か月で削除が前提
6停止理由・不良コードは階層化して管理できますかコードマスタの構造、入力UI自由記入欄のみ
7設備の時系列データ(ヒストリアン)とどう結合しますか設備ID・時刻の持ち方、OPC UA対応結合は利用者側で行う、の一言
8データを外部に出すとき、追加のライセンスや費用はかかりますかAPI利用料、ユーザー数カウント連携先の数でライセンスが増える
9バージョンアップでAPIやデータモデルは互換性を保ちますか互換性の方針、廃止の予告期間方針がない
10マスタ(品番・設備・不良コード)の変更履歴は残りますか有効期間付きのマスタ、改番の追跡上書き更新のみ
MESとAIの間のデータを出す、結合する、結果を戻すの3つの流れと質問番号の対応 MESデータモデル(Q2・Q6・Q10) データ基盤・AI学習・推論 出す:Q1 API・Q3 イベント・Q5 履歴・Q8 費用 戻す:Q4 ホールド・作業指示の登録 つなぐ:Q7 設備データ・Q9 互換性
10の質問は、AIとの間の3つの流れ(出す・つなぐ・戻す)に対応する。

回答の読み方

回答で特に注意するのは、質問1・4・8・9です。

質問1と4は、AIとの連携の可否を直接決めます。APIがない、またはあっても読取専用のMESでは、AIの結果を業務に戻す部分を作り込む必要があり、その工数は導入費用に含まれていないことが多くあります。

質問8のライセンスは、見落とすと後から費用が膨らみます。外部システムを「ユーザー」として数える製品や、API呼び出しの量で課金する製品があります。AIの推論結果をロットごとに書き戻すと、呼び出しの数は大きくなります。

質問9の互換性は、MESを10年以上使う前提では重要です。バージョンアップのたびに連携の改修が必要になると、AIの運用コストに跳ね返ります。

選定の進め方

10の質問は、MES選定の他の評価項目(業務機能、操作性、導入実績、サポート体制、費用)と並べて使います。AIを本格的に使う予定がなくても、データの出口は後から変えにくいため、選定時に重みを付けておくことを勧めます。

最後のデモは効果があります。仕様書上はAPIがあっても、実際に取り出すと必要な項目が含まれていない、性能が出ない、ということが分かることがあります。MESとAIのつなぎ方の方式比較はMESとAIをつなぐ3方式、MESのどのデータがAIに使えるかはAI学習に使えるMESデータ一覧、AI導入全体でのベンダーの比べ方は製造業AIベンダーの選び方で扱っています。

よくある質問

既にMESを使っている場合、この10の質問は役に立ちますか?

役に立ちます。現在のMESについて同じ質問の答えを調べると、AI連携で追加の開発が必要な部分が分かります。特に質問5(履歴の保持期間)と質問6(コードの構造)は、設定の変更で改善できることがあります。

クラウド型のMESとオンプレミス型でAI連携に違いはありますか?

クラウド型はAPIが整備されていることが多い一方、データベースを直接参照できないため、APIで取れない項目は取り出せません。オンプレミス型はDBを参照できる自由がある反面、その自由に頼ると保守性が落ちます。どちらでも、APIで何が取れるかの確認が中心になります。

ISA-95に準拠しているMESを選べば安心ですか?

ISA-95準拠をうたう製品でも、準拠の範囲は様々です。データモデルの用語や階層がISA-95に沿っていると、他のシステムとの対応付けがしやすくなりますが、APIやイベント配信の有無は別に確認する必要があります。

この記事に出てくる用語

用語集(日・英・中)をすべて見る

この特集について

AIは「データ基盤」で決まる

PoCは成功したのに本番で止まる。原因の多くはモデルではなく、MESと設備データの側にある 全130本

  1. MESとAIの関係:ロット・作業指示・品質判定がAIの精度を決める理由
  2. 製造業AIが本番で止まる7つの理由:PoCは成功したのにラインに載らない構造
  3. 製造業のAI-OCR:紙の検査記録・点検表・ミルシートをデータ化する手順
  4. データ基盤の段階的導入ロードマップ:ユースケースから逆算する8ステップ
特集の記事をすべて見る →

この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。