AASは「資産の標準化されたデジタル表現」

アセット管理シェル(Asset Administration Shell、AAS)は、設備・部品・製品といった資産(アセット)の情報を、決まった構造でデジタルに表すための仕組みです。Industrial Digital Twin Association(IDTA)の仕様では、AASを「資産の標準化されたデジタル表現」と位置付けています。

AASの構造は、次の3つの考え方でできています。

  1. 1つの資産に1つのAAS:資産ごとに一意のIDを持つAASを作る
  2. 側面ごとのサブモデル:銘板情報、技術データ、ドキュメント、稼働データ、カーボンフットプリントなど、資産の側面ごとにサブモデルを持つ
  3. 意味の参照:サブモデルの各要素はsemanticIdを持ち、ECLASSやIEC CDD(共通データ辞書)の定義を参照する。これにより「定格電流」が会社や国をまたいで同じ意味で扱える

規格としては、IEC 63278-1 Ed.1.0(2023年12月、IEC TC65)がAASの構造を定める国際規格として発行されています。製造業の資産(製品・設備の階層)を、ライフサイクル全体にわたって対象とします。IDTAの仕様(Part 1 メタモデル)は2025年7月にv3.1.1が公開されています。

資産、AAS、複数のサブモデル、ECLASSやIEC CDDの辞書の参照関係 資産設備・部品・製品 AAS(ID付き) 銘板(Nameplate) 技術データ 稼働データ CO2・ドキュメント等 意味の辞書ECLASS・IEC CDD(semanticIdで参照)
AASの構造。1つの資産に1つのAASがあり、側面ごとのサブモデルの各要素が辞書の定義を参照する。

OPC UA・MES・AASの役割の違い

AASはOPC UAやMESと競合するものではなく、扱う範囲が違います。混同すると、どこに何を実装するかを誤ります。

項目OPC UAMESAAS
主な目的設備とシステムの間のリアルタイムな通信と情報モデル工場内の作業指示・実績・品質・系譜の管理資産の情報を企業や工程をまたいで受け渡す標準の器
扱う情報現在値・アラーム・メソッドロット・作業・品質の取引的なデータ資産の静的情報(仕様・文書)と、必要に応じた動的情報
時間軸ミリ秒〜秒秒〜日資産のライフサイクル全体(設計〜廃棄)
主な利用者設備・SCADA・エッジ工場の生産・品質部門装置メーカー・部品メーカー・ユーザー・規制対応

実装の上では、AASのサブモデルの中身を、OPC UAのサーバーやMESのデータから埋める形になります。例えば、設備のAASの稼働データサブモデルはOPC UAから最新値を参照し、製品のAASの製造履歴サブモデルはMESの系譜から作る、といった構成です。OPC UAの情報モデルについてはOPC UAとは:AI活用で情報モデルが効く理由で扱っています。

日本の工場でAASが効く3つの場面

AASは、工場の中だけで閉じた用途では効果が見えにくい技術です。効くのは、会社や組織の境界を越えて資産の情報を受け渡す場面です。

  1. 装置メーカーからの情報の受け取り:設備を導入するとき、仕様・図面・取扱説明書・保全部品のリストを、紙やPDFではなくAASの形で受け取れば、設備マスタや保全システムへの登録を自動化できます。生成AIで保全支援をする場合も、構造化された設備情報があると検索の精度が上がります
  2. 顧客への製品データの提出:製品ごとの材料・工程・環境データの提出を求められる場面で、AASは受け渡しの器になります。EUで進むデジタル製品パスポート(DPP)の議論でもAASは候補の1つとして扱われており、詳しくはデジタル製品パスポート(DPP)と工場データで扱っています
  3. 複数工場・複数メーカーの設備の横断管理:同じ種類の設備を異なるメーカーから購入している場合、AASのサブモデルで情報の形を揃えると、設備横断の分析やAIの横展開がしやすくなります

着手するときの判断基準

AASに取り組むかどうかは、次の問いで判断できます。

  • 欧州の顧客や親会社から、製品や設備のデータをAAS形式で求められているか
  • 設備の導入時に、装置メーカーから受け取る情報の登録に大きな手間がかかっているか
  • 自社が装置メーカーで、顧客に設備のデジタル情報を提供することが差別化になるか

どれにも当てはまらない場合、工場内のAI活用のために先にAASを整える必要は低いと考えます。工場内のデータ統合は、ISA-95の資産階層でのタグ命名やMESのマスタ整備の方が先に効きます。

よくある質問

AASとデジタルツインは同じものですか?

同じではありません。デジタルツインは、物理的な対象をデジタル上に再現し、シミュレーションや監視に使う考え方の総称です。AASは、そのデジタルツインを構成する資産の情報を、標準的な形で表現し受け渡すための器です。AASはデジタルツインの一部を担う仕組みと考えると分かりやすくなります。

AASを作るには専用のソフトが必要ですか?

IDTAなどがオープンソースのツールやSDKを公開しており、小規模な試行はそれらで始められます。本格的に運用する場合は、PLMやMES、資産管理システムとの連携が必要になるため、既存システムのAAS対応状況を確認します。

日本の顧客からAASを求められることはありますか?

現時点では、欧州の顧客や欧州向けの製品で求められることが中心です。ただし、装置メーカーが標準の提供形式として採用し始めると、日本国内の取引でも使われる可能性があります。自社の取引先の動向を見ながら判断します。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。