富士通の購買向け3エージェント構成

富士通は2025年12月24日、NVIDIAとの協業の最初の成果として「Fujitsu Kozuchi Physical AI 1.0」を発表しました。自社LLM「Takane」をベースにしたKozuchi AI Agentと、複数のAIエージェントを連携させるフレームワークを含みます。購買業務向けの実装は、次の3つのエージェントで構成されています。

エージェント役割人の作業で言えば
帳票理解見積書・注文書などの書類を読み取り、品目・数量・単価・納期・条件を抽出する書類を読んで台帳に転記する
購買規約解析社内の購買規約や取引条件を解析し、確認すべき項目を整理する規程集を開いて該当条項を探す
適合チェック抽出した内容が規約・条件に合っているかを照合する書類と規程を突き合わせて不備を指摘する

富士通の購買部門での実証では、発注確認業務の工数が約50%削減されたとしています。これは富士通の社内実証の数字で、対象業務の範囲や比較期間の詳細は公表されていません。あわせて、GUIでエージェントを組み立てる画面と、異なるベンダーのエージェントを安全に接続する「セキュアエージェントゲートウェイ」を備え、マルチAIエージェントフレームワークのトライアル提供を始めたと発表しています。

発注確認業務の工数削減
約50%
富士通の購買部門での社内実証(2025年12月発表)

3つに分ける設計がうまい理由

この構成の要点は、1つの大きなAIに「この発注は問題ないか」と聞くのではなく、読む・調べる・照合するの3役に分けていることです。

購買業務の3エージェント構成と人の判断 見積書注文書 帳票理解 購買規約解析 適合チェック 調達担当の判断単価・発注先・発注 購買規程・取引条件
調達書類の確認を3つのエージェントに分け、最後の判断を調達担当に残す構成。

役割を分けると、次の利点があります。

  • どの段階で誤ったかを特定しやすい。帳票の読み取り誤りか、規約の解釈誤りかを切り分けられる
  • 帳票理解の精度は、既存のAI-OCRと同じ方法(項目ごとの読取率)で評価できる
  • 規約が改定されたとき、規約解析だけを更新すればよい

帳票の読み取りは、検査成績書やミルシートの読み取りと同じ技術領域です。読み取り結果を基幹システムに登録するときの注意点はAI-OCRの結果をMES・QMSに登録すると共通です。

任せられること、人に残すこと

生成AIに任せられるのは、書類の内容を正しく読み、ルールと照合し、不一致を指摘するところまでです。次の判断は人に残します。

  1. 単価の妥当性。市況、過去の取引価格、数量割引、品質実績を総合した判断で、書類だけでは決まりません
  2. 発注先の選定。品質・納期の実績、BCP上の分散、取引関係を含む判断です
  3. 発注の確定。規約に合っていても、需要や在庫の状況で発注を見送ることがあります
  4. 規約に定めのない例外の扱い

Deloitteは製造業のエージェント活用で、調達担当・生産技術者・生産計画担当による承認ゲート(Human approval gates)を置くよう推奨しています。調達業務でも、AIの指摘を受けて最終的に発注ボタンを押すのは担当者、という線引きが基本です。承認ゲートの設計はHuman-in-the-loopの設計で扱っています。

自社で始めるときの手順

  1. 対象書類を絞る。まずは定型の見積書・注文書など、書式が数種類に収まるものから始める
  2. 照合ルールを文書化する。担当者が頭の中で確認している項目(納期の下限、支払条件、検収条件など)を書き出す
  3. 過去の書類100〜200件で検証する。AIが指摘した不備と、実際に担当者が差し戻した不備を比べる
  4. 指摘の見逃しと過剰指摘を分けて数え、運用に乗せるかを判断する

効果は工数だけでなく、差し戻しの件数や、支払条件の不一致による後工程の手戻りでも測ると、経営層に説明しやすくなります。調達・SCM全体のAI活用は製造業の調達・SCMのAIを参照してください。

よくある質問

生成AIで価格交渉の材料を作れますか

過去の取引価格や見積の推移を要約し、比較表を作る作業には使えます。ただし市況予測や交渉方針の判断は担当者が行います。市況の予測には、生成AIより時系列の予測モデルが向いています。

富士通以外の製品でも同じ構成を作れますか

帳票の読み取り、規程の検索、照合の3役に分ける考え方は、汎用のLLMとRAG、AI-OCRを組み合わせても実現できます。重要なのは製品より、役割の分け方と照合ルールの明文化です。

取引先から受け取った書類をクラウドのAIに入れてよいですか

取引先との秘密保持契約の範囲と、社内の機密区分のルールを確認してください。入力データが学習に使われない契約のサービスを選ぶことが前提です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。