監査に耐える登録の3条件

AI-OCRの結果を品質記録として使うには、次の3つがそろっている必要があります。

  1. 紐付け:記録が、どの品目・ロット・シリアル・工程・設備・日時のものかが一意に分かる
  2. 修正の履歴:AIが読み取った値、人が修正した値、修正した人と日時、理由が残っている
  3. 原本との対応:登録された値から、元の紙(スキャン画像)の該当箇所にたどれる

1がないと、品質分析やトレーサビリティに使えません。2と3がないと、顧客監査や不具合の調査で「この値は誰がどう確認したのか」に答えられません。紙の記録では、記入者の押印と訂正印でこれを担保していました。デジタルに移すときも、同じ水準の追跡性が必要です。

医療機器や医薬品のように規制の厳しい業種では、電子記録の要件がさらに細かく定められています。業種の規制に沿った設計は医療機器製造のAIなどの業種別記事も参照してください。

紐付けのキーを手書きから外す

最も重要なのは、ロット番号や設備IDなどの紐付けのキーを、手書きの読み取りに頼らないことです。キーを誤読すると、記録全体が別のロットに入ってしまい、後から気づくのは困難です。

キーの取り方方法確実さ
作業指示から帳票を印刷MESの作業指示を発行するときに、ロット番号・品目・工程を印字した帳票を出す高い
QRコード・バーコード帳票にロットや設備のコードを貼る、または印字する高い
手書きのロット番号を読む記入者が書いたロット番号をOCRで読む低い。MESのロット一覧との照合が必須

MESから帳票を発行する方式にすると、帳票のIDとMESの作業指示が最初から対応しているため、スキャンした時点でどのロットの記録か分かります。帳票の様式の版もコードに含めておくと、様式の改訂後に古い帳票が混じった場合も検出できます。

AI-OCRとMES・QMSの連携 MES作業指示・ロット 帳票発行QRにロット・版 現場で記入 → スキャン画像を保存(原本) AI-OCR+照合読取値・信頼度・座標 確認・修正履歴を記録 MES・QMS登録ロットに紐付け
MESの作業指示から帳票を発行し、スキャン後の読み取り結果を同じキーで戻す。

修正確認フローの設計

読み取り結果の確認と修正は、誰でも自由にできる状態にしてはいけません。次の点を決めておきます。

  • 確認が必要な項目の条件:信頼度が閾値未満、規格値の境界付近、照合で不一致、のいずれか
  • 確認する人の権限:記入者本人か、検査の責任者か。合否に関わる項目は責任者の承認を必須にする
  • 修正の記録:AIの読取値、修正後の値、修正者、日時、修正理由を残す。読取値を上書きして消さない
  • 原本画像との対応:項目ごとに、画像上の座標(どこを読んだか)を保存し、確認画面で並べて表示する

修正理由は選択式にしておくと、後で集計できます。「OCRの誤読」「記入者の書き損じ」「記入漏れ」を区別できれば、帳票の様式を直すべきか、記入の教育をすべきかが分かります。

MESとQMSのどちらに登録するか

工程内の検査記録(寸法、外観判定、条件の確認)は、ロットや工程の実績と一緒に使うことが多いため、MESに登録するのが自然です。受入検査のミルシートや成績書、出荷検査の記録は、QMSで管理している工場もあります。

重要なのは、どちらに登録しても、ロットやヒート番号で互いに参照できることです。材料のヒート番号と製品のロットの対応がMESにあれば、ミルシートの成分値と製品の不良を結びつけて分析できます。トレーサビリティのデータの考え方は品質AIの前提はトレーサビリティ、MESのデータをAIに使う全般の考え方はMESとAIの関係を参照してください。

スキャンのタイミングと保管

紙の帳票をいつスキャンするかも設計の対象です。シフトの終わりにまとめてスキャンすると、確認・修正が翌日になり、問題のあるロットが次工程に流れてしまうことがあります。合否に関わる記録は、記入後すぐにスキャンして確認する運用が理想です。スキャンした原本の紙をいつまで保管するか、電子化した画像を正本とするかどうかは、品質保証部門と顧客の要求に合わせて決めてください。

段階的に紙をなくす

AI-OCRとMES・QMSの連携を作ると、帳票ごとの読み取り精度と修正の手間が数字で見えるようになります。修正の多い帳票、記入量の多い工程から、タブレット入力や計測器からの直接取り込みに置き換えていけば、最終的に紙そのものを減らせます。AI-OCRの導入全体の進め方は製造業のAI-OCRで扱っています。

よくある質問

AIの読取値を修正したら、元の値は消してよいですか

消してはいけません。AIの読取値、修正後の値、修正者、日時、理由をすべて残してください。監査や不具合調査で、誰がどう確認したかを説明するために必要です。

ロット番号を手書きで読み取るのは避けるべきですか

避けるべきです。MESの作業指示から帳票を印刷するか、QRコードで読み取れるようにしてください。手書きを読む場合は、MESのロット一覧との照合が必須です。

MESに読取結果を保存する項目がない場合はどうしますか

OCRの結果と修正の履歴を保持する中間のデータベースを置き、確定した値だけをMESやQMSに登録する構成にします。中間データベースにも、ロットのキーと原本画像のIDを持たせます。

紙の検査記録のデータ化を相談する

帳票の棚卸しから、MES・QMSへの登録設計まで、現状に合わせて整理します。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。