ゴム・タイヤは「配合」「工程」「検査」の3領域で考える

ゴム製品とタイヤの製造は、原料を練る混練、成形、加硫(熱と圧力で架橋させる工程)、検査という流れです。品質は配合(どの原料をどれだけ入れるか)と工程条件(混練の温度・時間、加硫の温度・圧力・時間)の両方で決まります。AIの使い道もこの構造に沿って3つに分かれます。

領域解く課題主なAI手法必要なデータ
配合設計目標物性を満たす配合を少ない試作で探すマテリアルズ・インフォマティクス(MI)、ベイズ最適化過去の配合と物性試験結果
混練・加硫の工程原料ばらつきを吸収し、物性のばらつきを抑える品質予測、ソフトセンサー、条件最適化バッチごとの混練データ、加硫条件、物性試験
外観・内部検査成形不良・異物・気泡の検出画像AI(外観・X線)良品・不良品の画像、判定記録

配合はデータが社内の研究部門に、工程データは工場に、検査記録は品質保証部門に分かれていることが多く、AIの効果はこれらをつなげられるかで決まります。

配合設計:MIで試作回数を減らす

配合設計は、多数の原料の組み合わせから目標の硬さ・引張強さ・耐摩耗性を満たす候補を探す問題で、MIの典型的な適用先です。材料・プロセス最適化を扱ったCitrine Informaticsの研究(2017年)では、50次元を超える探索で、ランダム探索の平均3分の1の測定回数で最良候補に届いたと報告されています。手法の考え方はマテリアルズ・インフォマティクスで解説しています。

中国では、杭州の中策橡胶が卓越級スマート工場に認定され、開発期間50%短縮、効率300%向上、不良率0.5%を報告しています(杭州网、2025年10月)。どの製品群・どの期間との比較かは記事に書かれておらず、AI単独の効果とも限りません。中国の「卓越級」は政府のスマート工場認定区分で、AIの応用率が認定要件に入っています。

国内では、横浜ゴムとdotDataが、技術者の仮説形成と解釈を支援するHuman-in-the-loop型のAIエージェントを共同開発していると2026年9月16日に発表しました(検証段階)。AIが答えを出すのではなく、技術者が「なぜこの配合が効いたか」を考える材料を出す設計で、配合設計のように因果の解釈が欠かせない領域に合った作り方です。

混練・加硫:バッチのばらつきをデータで抑える

混練はバッチ工程で、天然ゴムのロットや季節で練り上がりの粘度がばらつきます。従来は抜き取りの物性試験で確認していましたが、混練中の電力・温度・ローター回転の軌跡から練り上がり品質を推定するソフトセンサーの考え方が使えます。ラボ分析値を工程データから推定する仕組みはソフトセンサーとはを参照してください。

加硫は温度・圧力・時間の管理が中心で、条件のずれが物性や外観不良に直結します。ここでは「どのバッチのコンパウンドを、どの加硫機で、どの条件で加硫したか」を追えることが先です。

ゴム・タイヤ製造の工程とデータ 配合設計 混練(バッチ) 成形 加硫 外観・X線検査 MES・統合データ基盤:配合番号 → 混練バッチ → 成形・加硫ロット → 製品シリアルこの系譜がないと、物性や不良の原因を配合・工程のどちらにも戻せない
ゴム・タイヤ製造のデータの系譜。配合(研究)・工程(工場)・検査(品証)をバッチとシリアルでつなぐ。

Bridgestoneに見るデータ基盤先行の進め方

Microsoftは2024年の製造業向けブログで、BridgestoneがAvanadeと組み、Microsoft Fabric(当時プライベートプレビュー)上に統合工場データ基盤を作り、歩留まり損失や計画の課題に取り組んでいると紹介しました。公開されているのは取り組みの方向で、効果の数値はありません。

注目すべきは、個別のAIモデルより先に、複数工場のデータを同じ形で集める基盤を作っている点です。タイヤは製品点数が多く工場もグローバルに分散しているため、1工場で作ったモデルを他工場に広げるには、設備タグやロット体系がそろっている必要があります。欧米のタイヤ・ゴムメーカーの公開情報は、このような基盤の話が中心で、個別AIの精度の話は少ないのが特徴です。製造業向けの基盤製品の比較は産業データ基盤6製品の比較にまとめています。

外観・内部検査の注意点

タイヤの外観は黒色で凹凸が多く、照明の当て方で欠陥の見え方が大きく変わります。内部の気泡や異物はX線検査が中心です。どちらも、AIのモデル選びより撮像系の設計と、何を不良とするかの基準の統一が精度を左右します。検査AIの判定は人の再確認と組み合わせ、判定結果をシリアルに紐付けて記録します。

よくある質問

配合データが紙の試験記録しかありません

MIに使うには、配合(原料と比率)、試験条件、物性値を表形式にそろえる必要があります。全量を電子化する前に、対象とする製品群と物性を絞り、数百件程度を整理してから始めるのが現実的です。

タイヤ以外のゴム製品(ホース、パッキン)でも同じ考え方ですか

同じです。配合・混練・加硫・検査の構造は共通で、多品種少量の工業用ゴム製品では、配合の探索と条件出しの短縮がより効果を出しやすい領域です。

中国メーカーの公表値はどう読めばよいですか

比較の基準(いつの、どの製品との比較か)が書かれていないことが多く、AI以外の設備投資の効果も含まれます。自社の目標値にそのまま使わず、取り組みの方向を知る材料として読みます。

この記事に出てくる用語

用語集(日・英・中)をすべて見る

この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。