このシートで決めること:最初のテーマ1件と、データ整備から始める候補

テーマ選定シートは、現場から集めた困りごとを1行1件で並べ、AIで解く必要のないものを外したうえで、残りを4つの軸で採点する表です。出力は「最優先でPoCに進む1〜2件」「データ整備を先にする候補」「既製品で小さく試す候補」「見送り」の4区分です。

考え方の詳細は製造業のAI導入テーマの選び方で解説しています。このページはシートの使い方に絞ります。

シートは3枚構成です。

シート名役割記入する人
1_候補一覧困りごとを1行1件で書き出し、除外判定をするDX推進の事務局(各部門から聞き取り)
2_採点除外されなかった候補を4軸で採点し、合計点と区分を出す製造・生技・品証・情シスの4者
3_判断メモ上位候補の採点根拠と、次の打ち手(PoC・データ整備・見送り)を書くDX推進の責任者

候補の数は1工場で10〜20件を想定し、行は20行用意しています。20件を超える場合は、似た困りごとをまとめてから入れます。

項目の説明:候補一覧シート

候補一覧では、まず課題を「AIの技術」ではなく「損失」の形で書きます。「画像AIを使いたい」ではなく「外観検査の見逃しで月3件の客先クレームが出ている」と書きます。

列書く内容書き方の注意
No.通し番号採点シートと共通のキーになる
部門・工程例:第2工場 塗装ラインライン単位まで書くと横展開の判断がしやすい
困りごと現状の損失を1文で「〇〇したい」ではなく「〇〇で困っている」
損失の種類不良・停止・工数・在庫・属人化から選ぶプルダウン。複数ある場合は主なもの1つ
年間損失の概算万円単位不良率×生産量×単価、停止時間×時間損失など桁が合えばよい
関係するデータ例:検査画像なし、MESに検査実績あり「ある・ない」ではなく、どこに何年分あるか
除外判定該当すれば理由を選ぶ閾値で解ける/原因と対策が明確/データが原理的に取れない/業務が決まっていない

除外判定はこのシートで一番大事な列です。寸法が公差内かどうかのように判定基準が数値で決まっている課題は、SPC(統計的工程管理)や閾値管理で足ります。除外された候補は消さずに残し、別の手段(設備改善、帳票の標準化など)の宿題として扱います。

項目の説明:採点シートと記入例

採点シートでは、除外されなかった候補を4軸で1〜5点にします。各軸の点数の目安はシートの欄外に書いてあり、採点者が迷ったら目安に戻ります。

評価軸5点3点1点主な採点者
効果額年数千万円以上年数百万円年数十万円生産技術・品証
データの有無2年分以上がMES・ヒストリアンにロット紐付きで残る半年分程度、一部が紙ない、または紙のみ情シス+現場
現場の受け入れ現場から改善要望が出ている必要性は認めるが担当者未定現場は困っていない製造
横展開性同じ工程が複数拠点にある同じ工場の別ラインに展開できる1ライン固有経営企画・DX推進

記入例を示します(架空の部品メーカーを想定)。

No.候補効果額データ受け入れ横展開合計区分
3塗装ブツの目視検査(2名×2直)425415データ整備から着手
7プレス金型の突発破損による停止544316最優先でPoC
11日報の転記作業243514既製品で小さく試す
15熟練者の段取り判断の属人化31228見送り(聞き取りから)

合計点だけで並べると No.3 と No.7 は1点差ですが、区分は大きく違います。No.3 は検査画像が残っていないため、すぐにPoCをしても評価できません。シートは「効果額が4点以上でデータの有無が2点以下なら、合計点にかかわらずデータ整備から着手」と自動で区分します。現場の受け入れが1点の候補は、他の点数にかかわらず「保留」になります。

効果額とデータの有無による4区分の振り分け データ整備から着手例:No.3 塗装ブツ検査 最優先でPoC例:No.7 金型破損停止 見送り例:No.15 段取り判断 既製品で小さく試す例:No.11 日報転記 データの有無(右ほど整っている)→ 効果額(上ほど大きい)→
採点結果は効果額とデータの有無の2軸で4区分に振り分ける。合計点の順位とは一致しないことがある。

判断メモシートの書き方と、データ基盤の視点

上位2〜3件については、判断メモに「なぜこの点数か」を残します。半年後に別の候補を検討するとき、前回なぜ見送ったかが分からないと同じ議論を繰り返すからです。

判断メモには次の4点を書きます。採点の根拠(特にデータの有無を誰がどう確認したか)、次の打ち手と期限、PoCに進む場合の結果を受け取る部署、データ整備が必要な場合の不足データの一覧です。

データの有無の採点では、MESの実績や検査記録が「ロットや設備に紐付いているか」を必ず確認します。検査画像が残っていても、どのロット・どの金型の製品か分からなければ、不良の原因分析にも再学習にも使えません。不足データの洗い出しにはAI導入前のデータ準備チェックリストを併用すると、整備の作業量まで見積もれます。

よくある質問

4軸に重みを付けてもよいですか?

付けて構いません。シートには軸ごとの重み欄があり、初期値はすべて1です。最初のテーマ選びでは横展開性を1.5にする、データ整備の予算が取れない年はデータの有無を1.5にする、といった調整を想定しています。重みを変えたら判断メモにその理由を書いてください。

効果額が出せない候補はどう採点しますか?

属人化や技能伝承のように金額にしにくい候補は、「その人が不在の日に何が止まるか」「教育に何時間かかっているか」を時間に直して概算します。それでも出せない場合は3点を仮置きし、判断メモに「効果額未確定」と書いて、PoCの前に試算をやり直します。

中小企業で候補が5件程度しかない場合も使えますか?

使えます。候補が少ないときは、除外判定と区分の振り分けだけでも価値があります。5件のうち3件が「閾値で解ける」で外れることも珍しくなく、その場合はAIより先にやることがはっきりします。

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候補一覧・採点・判断メモの3シート構成。除外判定と区分の自動振り分け、記入例つきです。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。