チェックリストの目的:データが「ある」と「使える」を分ける
AI導入の相談で「データは何年分もある」と言われても、実際に使える形で残っていることはまれです。IPAの「DX動向2026」では、日本企業のデータ整備・管理・流通の課題として「データの標準化が難しい」が36.8%、「管理システムが整備されていない」が32.6%挙がっています。
このチェックリストは、データの所在ではなく「AIの学習と評価にそのまま使えるか」を40項目で判定します。結果は「PoCに進める」「PoCと並行して整備する」「整備を先に行う」の3つに分かれ、整備が必要な項目には工数の見積欄があります。
考え方はAI導入前の製造データ準備で解説しています。
40項目の構成:5分野×8項目
| 分野 | 主な項目(抜粋) | 確認する人 |
|---|---|---|
| A 設備・時系列データ(8) | タグの命名規則、サンプリング周期、時刻同期、欠損率、ヒストリアンの圧縮設定、単位の統一 | 生産技術・制御 |
| B MES・実績データ(8) | ロットIDの一意性、作業指示と設備の紐付け、停止理由の記録粒度、段取り・品種切替の記録 | 製造・情報システム |
| C 品質・検査データ(8) | 検査結果とロットの紐付け、不良の記録粒度、画像の保存、判定基準(限度見本)の版管理 | 品質保証 |
| D マスタデータ(8) | 品番の改番履歴、設備IDの統一、不良コードの体系、工程コード | 情報システム・生産管理 |
| E 運用・管理(8) | データの所有者、保存期間、アクセス権、社外への持ち出し可否 | 情報システム・DX推進 |
主要項目の判定基準と確認方法
各項目は「○(そのまま使える)/△(加工すれば使える)/×(ない、または使えない)」の3段階で判定します。判定の根拠として「どのシステムのどのテーブル(タグ)を見たか」を記入欄に書きます。抜粋を示します。
| No. | 項目 | ○の基準 | 確認方法 |
|---|---|---|---|
| A-2 | タグの命名規則 | 設備・信号の種類が名前から分かり、全設備で統一 | ヒストリアンのタグ一覧を出力し、同種信号の名前を比べる |
| A-3 | 時刻同期 | PLC・ヒストリアン・MES・検査装置の時刻差が1秒以内(用途により要求は変わる) | 同じ事象(設備停止など)の記録時刻を各システムで突き合わせる |
| A-5 | ヒストリアンの圧縮 | 解析に必要な周期で元の値が残っている | 圧縮設定(デッドバンド)を確認し、生データと比べる |
| B-1 | ロットIDの一意性 | 同じIDが別ロットに再利用されていない | MESのロット実績を年単位で重複チェック |
| B-4 | 停止理由の粒度 | 「その他」が停止件数の1割未満で、原因別に分析できる | 停止理由別の件数を集計する |
| C-2 | 検査結果とロットの紐付け | 検査結果からロット・設備・時刻まで辿れる | 不良品1個を選び、製造時の設備データまで辿れるか試す |
| C-5 | 判定基準の版管理 | 限度見本・判定基準の改訂日と内容が記録されている | 品証の文書管理を確認する |
| D-1 | 品番の改番履歴 | 旧品番と新品番の対応表がある | 過去3年の品番一覧で、同一品の別名がないかを確認 |
| E-4 | 社外持ち出しの可否 | どのデータを社外(クラウド・ベンダー)に出せるかが決まっている | 情報セキュリティ規程と、図面・レシピの扱いを確認 |
C-2の「不良品1個を選んで辿る」確認は、40項目の中で最も効果的です。辿れなかった箇所が、そのままAIの学習データを作るときに詰まる箇所になります。
記入例と、結果の読み方
架空の部品メーカーで、プレス金型の破損予兆検知(予知保全)をテーマにした場合の記入例の一部です。
| No. | 項目 | 判定 | 根拠・現状 | 整備内容 | 整備工数 |
|---|---|---|---|---|---|
| A-1 | 対象信号の取得 | ○ | 荷重波形を1kHzでヒストリアンに保存(2年分) | なし | — |
| A-3 | 時刻同期 | △ | ヒストリアンと保全記録(CMMS)で最大15分のずれ | NTPで同期。過去分は停止記録で補正 | 5人日 |
| B-2 | 作業指示と設備の紐付け | △ | MESの段取り実績に金型IDはあるが、ヒストリアン側にない | 段取り実績から金型IDを時系列に付与 | 8人日 |
| C-3 | 不良・故障の記録 | △ | 破損18件は記録あり、原因の記載は自由記述 | 故障モード別に分類し直す | 3人日 |
| D-3 | 設備IDの統一 | × | MESとCMMSで設備番号の体系が違う | 対応表を作成 | 2人日 |
| E-1 | データの所有者 | × | ヒストリアンの管理者が不明確 | 生産技術課を所有者に指定 | — |
判定結果は分野ごとに集計し、次の基準で区分します。×が用途に必須の項目に1つでもあれば「整備を先に行う」、必須項目がすべて○か△なら「PoCと並行して整備」、すべて○なら「PoCに進める」です。予知保全では設備IDの統一(D-3)が必須項目に入るため、この例は「整備を先に行う」になります。ただし対応表の作成は2人日で済むので、それを片付けてから、残りの△をPoCと並行して整備する計画にします。
よくある質問
40項目すべてを点検するのに、どのくらいかかりますか?
対象ラインを1つに絞れば、関係者4〜5名で延べ3〜5日が目安です。C-2のように実際にデータを辿る項目に時間がかかります。工場全体を一度に点検しようとすると終わらないため、最初のAIテーマの対象範囲に限って行います。
MESがない工場でも使えますか?
使えます。B分野の項目は、紙の日報や生産管理システム、Excelの実績表に置き換えて判定します。ロットや作業者の記録が紙にしかない場合は×になり、まずデジタル化が整備内容になります。
点検の結果、×ばかりだった場合はAIを諦めるべきですか?
諦める必要はありませんが、AIより先にデータ整備に投資する判断になります。整備したデータは、AI以外の改善(停止分析、品質の層別)にもすぐ使えるため、無駄にはなりません。整備の順序は、最初に狙うAIテーマの必須項目から決めます。
5分野40項目の点検表と、外観検査・予知保全・需要予測の必須項目プリセット、整備工数の集計表つきです。
この記事に出てくる用語
AIは「データ基盤」で決まる
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