なぜひな形から始めるか:方針の策定は進んだが中身が薄い

総務省の令和8年版情報通信白書(2025年度調査)では、生成AIの活用方針(積極活用または領域を限定して利用)を定めた日本企業は68.9%で、前年の49.7%から大きく伸びました。大企業は74.0%、中小企業は58.1%です。方針を作る企業が増えた一方で、製造業に特有の「図面」「工程条件」「顧客から預かった仕様」をどう扱うかまで書き込んだルールは多くありません。

このひな形は、一般的な生成AI利用ルールに製造業の情報区分を加え、10章構成の条文にしたものです。作り方の考え方は生成AIの社内利用ルールの作り方で解説しています。

ひな形の各条文には、そのまま使える部分と、自社で書き換える部分([ ]で示す)があります。書き換えが必須の箇所は、第3章(入力禁止情報)と第4章(利用できるツール)に集中しています。

10章の構成と各章の要点

章見出し定めること書き換えの要否
第1章目的と適用範囲対象者(派遣・協力会社を含むか)、対象ツール、海外拠点への適用要
第2章用語の定義生成AI、入力、出力、業務利用、承認ツール原則そのまま
第3章入力してはいけない情報情報区分ごとの入力可否(製造業向けの区分つき)必須
第4章利用できるツールと設定承認ツールの一覧、学習利用の無効化、個人アカウントの禁止必須
第5章出力の確認と利用人による確認、数値・規格値の検証、社外に出す場合の手順一部
第6章権利と表示著作権・商標の確認、生成物であることの表示一部
第7章禁止する使い方品質判定・安全判断の代替、人事評価、なりすまし一部
第8章記録と報告利用記録、インシデント報告の窓口と期限要
第9章教育と相談窓口利用前の研修、相談先要
第10章見直しと改訂改訂の頻度、改訂の責任者要

第3章「入力してはいけない情報」の書き方と記入例

ルールの中で最も重要なのが第3章です。「機密情報を入力しない」と書くだけでは、現場は何が機密か判断できません。ひな形では、製造業で扱う情報を区分し、ツールの種類ごとに入力可否を表で示す形にしています。

情報区分例一般向け生成AI(学習利用あり)社内承認ツール(学習利用なし)社内専用環境(オンプレ等)
公開情報カタログ、公開規格の番号、自社サイトの文章可可可
社内一般社内通知、一般的な手順書不可可可
技術情報図面、工程条件・レシピ、検査基準、不具合解析不可[部門長の承認で可]可
顧客から預かった情報顧客図面、仕様書、NDA対象の情報不可不可(顧客の同意がある場合を除く)[契約で許される範囲で可]
個人情報従業員・取引先担当者の氏名と評価、作業者の映像不可[匿名化した場合のみ可][規程に従う]
輸出管理・安全保障関連該非判定が必要な技術、軍需関連の情報不可不可[輸出管理部門の確認後]

[ ]の部分は自社の判断で書き換えます。特に「顧客から預かった情報」は、自社の判断だけでは決められません。顧客との秘密保持契約で第三者のサービスへの提供が禁じられていれば、学習利用を無効にしたクラウドサービスでも入力できない場合があります。購買・営業・法務で主要顧客の契約を確認してから書きます。

第5章・第7章:製造業で特に書いておくこと

第5章(出力の確認と利用)では、数値の扱いを明記します。生成AIは規格値、公差、材料の物性値、法令の条文番号をもっともらしく間違えることがあります。ひな形では「出力に含まれる数値・規格番号・法令名は、原典で確認してから使用する」「確認した原典を記録する」の2項を必須にしています。

第7章(禁止する使い方)には、製造業ならではの項目として「製品の合否判定、設備の安全に関わる判断を、生成AIの出力だけで行わない」を入れています。PLCのプログラムや作業手順書の下書きに生成AIを使う場合も、従来のレビューと試験の手順を省略しないことを明記します。

ルールの運用状況は、第8章の利用記録から定期的に確認します。総務省の2025年12月の資料では、AI事業者ガイドライン(総務省・経済産業省)や、デジタル庁の生成AI調達・利活用ガイドラインなどの公的な指針が整理されています。第10章の改訂時には、これらの改訂も確認対象に入れます。

よくある質問

ひな形をそのまま社内規程にしてよいですか?

第2章などそのまま使える部分もありますが、第3章と第4章は自社の情報区分と承認ツールに合わせて必ず書き換えてください。就業規則や情報セキュリティ規程との関係(どちらが優先か、違反時の扱い)は、法務・人事と確認したうえで制定します。

個人のスマートフォンで生成AIを使うことは禁止すべきですか?

業務情報を個人アカウントで入力することは禁止するのが一般的です。ひな形の第4章では、業務利用は会社が承認したツールと会社のアカウントに限ると定めています。ただし禁止だけでは隠れて使われるため、承認ツールを早めに用意することが実効性の条件になります。

どのくらいの頻度で見直すべきですか?

ひな形では年1回の定期見直しと、承認ツールの追加・規約変更・法令改正・インシデント発生時の臨時見直しを定めています。生成AIのサービスは機能と規約の変更が頻繁なため、承認ツール一覧(第4章の別表)は半年ごとの確認をおすすめします。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。