回転機が予知保全の最初の対象に向いている3つの理由

1つ目は、故障モードが類型化されていることです。軸受の損傷、アンバランス、ミスアライメント、緩み、キャビテーション(ポンプ)など、回転機の故障は種類が限られ、どの故障がどの信号にどう現れるかの知見が蓄積されています。

2つ目は、兆候の期間が比較的長いことです。軸受の傷は数週間から数か月かけて進行することが多く、振動の変化を捉えてから計画的に交換する余裕があります。

3つ目は、規格と公開データが揃っていることです。振動の評価にはISO 20816があり、軸受や設備の異常音についてはCWRU軸受データや日立のMIMIIデータセット(バルブ・ポンプ・ファン・スライドレール)など、研究用の公開データもあります。手法の検証がしやすい対象です。

機種別の故障モードと捉える信号

機種主な故障モード主に使う信号補助の信号
遠心ポンプ軸受損傷、キャビテーション、メカニカルシールの漏れ、インペラの摩耗・詰まり振動(軸受箱)吐出圧力・流量、モータ電流、シール部の温度
ファン・ブロワアンバランス(羽根の汚れ・摩耗)、軸受損傷、ベルトの緩み振動モータ電流、軸受温度
コンプレッサ(スクリュー・往復)軸受損傷、弁の不具合(往復式)、潤滑不良、冷却不良振動、吐出温度圧力、電流、油温・油分析
電動機(共通)軸受損傷、回転子・巻線の異常、ミスアライメント振動、電流巻線・軸受温度

ポンプでは、キャビテーション(液中の気泡が発生と崩壊を繰り返す現象)が特徴的な故障モードです。振動の高周波成分の増加や、吐出圧力の変動として現れます。設備の故障というより運転条件の問題であることも多く、流量や吸込側の圧力と合わせて見ないと、原因を判断できません。

ファンは、羽根に付着した汚れや摩耗によるアンバランスが多く、回転周波数の成分の振動が大きくなります。ベルト駆動のファンでは、ベルトの緩みや摩耗も主要な故障モードです。

センサの選び方の全体像は予知保全のセンサ選定、振動の評価の詳細は振動データの予知保全AIで扱っています。

信号の組み合わせ方:振動を主、電流と温度を確認用に

回転機の状態監視では、振動を主な信号とし、電流と温度を確認用に組み合わせる構成が一般的です。

振動を主信号、電流と温度を確認用、圧力や流量などのプロセス値で運転条件を把握する構成 振動(主)軸受・アンバランス・緩み 電流(確認)負荷・電気的異常 温度(確認)潤滑不良・過負荷 プロセス値(条件)圧力・流量・運転台数 プロセス値がないと、運転点の変化による振動の増減を異常と誤判定する
回転機の状態監視の信号構成。振動で早く捉え、電流・温度・プロセス値で原因を絞る。

振動は兆候が早く現れるため、早期検知の主力です。電流は、負荷の変化やモータの電気的な異常を捉え、振動の変化が負荷によるものか機械的な異常かを切り分けるのに使います。温度は応答が遅いため早期検知には向きませんが、潤滑不良や過負荷が進んでいることの確認に使えます。

見落とされがちなのが、プロセス値(圧力・流量・運転台数・バルブ開度)です。ポンプやファンは、運転点(流量と圧力の組み合わせ)が変わると振動のレベルも変わります。運転点の変化を知らずに振動だけを見ると、正常な運転の変化を異常と判定してしまいます。

監視周期の決め方

監視周期は、故障の進行速度と設備の重要度で決めます。

監視方式向く設備目安
連続監視停止が工場全体に影響する設備、予備機がない設備振動の特徴量を数秒〜数分ごと、生波形は異常時に保存
定期スナップショット重要だが予備機がある設備1日数回〜1時間ごとに数秒間の波形を取得
巡回測定重要度が低い設備、台数が多い設備週1回〜月1回、携帯型の測定器で測定

予備機がある設備は、異常を検知してから予備機に切り替えれば停止を避けられるため、連続監視の必要性は下がります。逆に、予備機がなく、止まるとライン全体が止まるユーティリティ設備(主力のコンプレッサや冷却水ポンプなど)は、連続監視の優先度が高くなります。

ユーティリティ設備ならではの注意点

ポンプ・ファン・コンプレッサは、生産設備ではなくユーティリティ設備として管理されていることが多く、データの持ち方に特有の課題があります。

1つ目は、管理部門が違うことです。生産設備は製造部門、ユーティリティ設備は工務・施設部門が管理していることが多く、保全記録やデータのシステムが別になっています。設備IDの体系も違うことが多いため、統合する際は対応表が必要です。

2つ目は、生産計画との関係が見えにくいことです。コンプレッサの負荷は、どのラインがどれだけ稼働しているかで変わります。MESの稼働実績とユーティリティの運転データを時刻で結べると、負荷の変化を正しく解釈できます。

3つ目は、省エネとの両立です。回転機は工場の電力消費の大きな割合を占めることが多く、状態監視のデータは省エネの分析にも使えます。振動や電流のデータを省エネ用のデータ基盤と共通化すると、投資の効果を2つの目的で説明できます。

よくある質問

予備機がある設備にも状態監視は必要ですか?

停止の損失は小さくなりますが、予備機に切り替えた後に元の機械を修理する計画を立てるために、劣化の状況を把握しておく価値はあります。巡回測定や定期スナップショットなど、費用の低い方式で十分なことが多いです。

古いポンプにもセンサは付けられますか?

軸受箱に振動センサを取り付ける、盤側で電流を測るなど、設備の制御装置に手を加えずに後付けする方法があります。取付面が塗装や錆で平らでない場合は、取付用の台座を設けると測定が安定します。

コンプレッサの状態監視と省エネ制御は同じシステムでできますか?

データ収集の基盤は共通にできます。ただし状態監視は異常の検知、省エネ制御は運転台数や圧力設定の最適化と目的が違うため、分析の仕組みは分けて考えるのが一般的です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。