安全カメラの映像は個人情報として扱う

工場の安全カメラが撮影する映像は、顔や体格、作業服の名札などから特定の個人を識別できる場合、一般に個人情報として扱う必要があります。AIで保護具の未着用や危険エリアへの侵入を検知すると、「誰が」「いつ」「どこで」規則を守らなかったかという記録が残ることになり、扱いはさらに慎重さが求められます。

日本の個人情報保護法では、個人情報を取り扱う際に利用目的をできる限り特定し、本人に通知または公表すること、目的の範囲を超えて利用しないことが基本になります。具体的な解釈や、顔画像を使う場合の扱いは、個人情報保護委員会のガイドラインやQ&Aで確認し、必要に応じて法務部門や専門家に相談してください。本記事は法的助言ではなく、実務で決めておくべき項目の整理です。

決めておくべき5つの原則

原則内容決めないと起きること
1 目的の限定安全(災害防止・ヒヤリハットの把握)に限定し、明文化する後から別の目的に使われる不安が残る
2 目的外利用の禁止人事評価・懲戒・作業スピードの監視に使わないと明記する「監視カメラ」と受け止められ、協力を失う
3 保存期間通常の映像は短期で消去し、事故・ヒヤリハットの映像だけ期間を決めて保存する映像が無期限に蓄積され、漏えい時の影響が大きくなる
4 閲覧者の限定閲覧できる役割を決め、閲覧の記録を残す興味本位の閲覧や、無断の持ち出しが起きる
5 労使の協議導入前に労働組合や従業員代表と協議し、内容を周知する現場の反発、カメラの向きを変える・隠すといった行動

最も重要なのは、2の目的外利用の禁止です。保護具の未着用を検知したデータが、個人の評価や懲戒に使われると分かれば、作業者はカメラを避けるようになります。安全の改善に必要なのは、個人を責めることではなく、未着用が起きやすい場所・作業・時間帯を知ることです。集計は個人単位ではなく、場所・作業・時間帯の単位で行うのが原則です。

映像データの段階と個人識別の扱い 撮影・推論エッジで処理 通常映像短期で自動消去 検知時の切出し期間を決めて保存 集計場所・時間帯単位 右へ進むほど個人の識別を落とす(顔のぼかし、個人名を持たない集計) 人事評価・懲戒への利用は全段階で禁止
映像データの流れと、各段階で個人の識別をどこまで残すか。

技術でプライバシーを守る方法

運用のルールに加え、技術的な手段で個人の識別を減らすことができます。

  • エッジでの推論:映像をクラウドや中央サーバに送らず、カメラの近くで推論し、検知結果と短い切り出しだけを送る
  • 顔のぼかし・骨格化:保存する映像の顔をぼかす、または姿勢推定の骨格情報だけを残す
  • 自動消去:通常の映像は一定時間で自動的に上書きする
  • アクセス記録:誰がいつどの映像を見たかを記録する

転倒検知や危険エリアへの侵入検知のように、個人を特定しなくても目的を果たせる用途では、骨格情報だけで処理する方式を優先して検討するとよいでしょう。

欧州拠点ではEU AI Actにも注意

欧州に拠点を持つ企業は、EUのAI規制法(AI Act)にも注意が必要です。AI ActのAnnex III第4項は、雇用・労務管理の領域で、従業員のパフォーマンスや行動の監視に使うAIを高リスクに分類しています。作業者の行動を監視・評価するAIは、この区分に該当しうるとされます。

安全目的のカメラAIがそのまま高リスクに当たるかは、用途と使い方次第です。ただし、安全目的で入れたシステムを作業者の評価に流用すれば、高リスクの領域に入る可能性が高まります。目的外利用を禁止する原則は、規制対応の観点からも重要です。詳しくは作業者を監視するAIはEU AI Actの高リスクを参照してください。

委託先とクラウドの扱い

安全カメラAIの多くは、ベンダーの製品やクラウドサービスを使います。映像や検知結果がどこに保存され、ベンダーが何の目的で使えるのかを契約で確認してください。特に、ベンダーがモデルの改善のために顧客の映像を使う条件があるかどうかは、従業員への説明内容に直結します。

海外拠点で同じシステムを使う場合は、その国のデータ保護の規制にも従う必要があります。中国拠点の映像を日本で分析する場合など、データの越境移転に当たる構成では、事前に現地の規制を確認します。

導入前のチェックリスト

規程を作ったら、導入前に現場で説明会を開き、質問に答える場を設けます。製造業のAIで個人情報を扱う全般のルールは製造業AIと個人情報で扱っています。

よくある質問

安全カメラの映像を事故の原因調査に使ってよいですか

事故・ヒヤリハットの原因調査は安全目的の範囲内です。ただし、調査の結果を個人の懲戒に直結させると、以後の協力が得にくくなります。運用規程で調査時の扱いを事前に決めておいてください。

映像の保存期間はどのくらいが適切ですか

法令で一律に決まっているわけではなく、目的に必要な最小限の期間を定めます。通常の映像は短期で自動消去し、事故・ヒヤリハットに関わる映像だけ、調査や再発防止に必要な期間を決めて保存するのが一般的な考え方です。

労働組合がない場合はどうしますか

従業員代表や職場の代表者と協議し、全従業員に内容を説明します。説明の記録と、問い合わせ窓口を用意しておくことが重要です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。