利用率の数字は調査によって大きく違う

製造業の生成AI利用率は、調査によって数字が大きく違います。MONOistの読者調査(2025年2月、402件)では「日常的に使う」と「時々使う」の合計が65.6%、アルサーガパートナーズの調査(2025年7月、製造業311名)では何らかの形で使っている人が51.0%、アルダグラムの調査(2025年6月)では製造業の業務活用率が24.6%でした。母集団(ITへの関心が高い読者か、一般の就業者か)と設問(利用経験か業務での活用か)が違うためです。

いずれの調査でも共通しているのは、使っている人は効果を感じている一方で、使っていない人が相当数いることです。アルサーガパートナーズの調査では利用者の87.6%が効率向上を実感していました。社内でも同じ構造が見られます。エクサウィザーズの利用実態調査(2026年10月公表)では、上位10%のユーザーがメッセージ量の約半分を占めていました。

生成AIを使わない理由1位「具体的な活用方法がわからない」
46.7pt
アルサーガパートナーズ(製造業311名、2025年7月)
同2位「既存システムとの連携が難しい」
25.7pt
同上
上位10%のユーザーが占めるメッセージ量
約半分
エクサウィザーズ利用実態調査(2026年10月公表)

利用が伸びない5つの原因

調査結果と製造業の現場の事情を合わせると、利用が伸びない原因は次の5つに整理できます。

原因典型的な状態影響を受ける人
1. 現場に端末がない作業者は共用PCしかない、またはPCに触れない工場の作業者、班長
2. 業務に合う型がない何を入力すればよいか分からず、試して終わる全員(特に初心者)
3. 機密区分が曖昧図面や品質データを入れてよいか分からず、使わない設計、品質、生産技術
4. 社内データにつながらない自社の手順書や過去事例を知らないAIは役に立たない保全、品質、現場
5. 効果が見えない上司が利用を評価しない、時間短縮が成果にならない管理職、推進担当

アルサーガの調査で「活用方法がわからない」が1位、「既存システムとの連携が難しい」が2位だったことは、原因2と原因4に対応しています。

原因別の打ち手

端末、型、機密区分、データ連携、効果測定の5つの原因に、それぞれの打ち手を対応させた図 1. 現場に端末がない 2. 業務に合う型がない 3. 機密区分が曖昧 4. 社内データにつながらない 5. 効果が見えない 共用端末・音声入力・現場の定位置 業務別のプロンプト雛形を配る 入力してよい情報の3区分を明示 手順書・事例のRAGを1業務から 業務単位で効果を測り共有する
5つの原因と打ち手の対応。原因3・4はルールとデータ整備、原因1・2・5は運用で解く。

原因1(端末)には、工場の休憩所や詰所に共用端末を置き、ログインの手間を減らすことが効きます。手袋をしたままでも使えるよう、音声入力を用意するのも有効です。個人のスマートフォンを使わせる場合は、私物端末の利用ルールを先に決めます。

原因2(型)には、業務別のプロンプト雛形を配ります。「不具合報告の下書き」「保全記録の要約」「外国人作業者向けの手順の言い換え」のように、業務名で探せる形にするのがポイントです。雛形の例は製造業の業務別プロンプト雛形にまとめています。

原因3(機密区分)は、ルールがないことより、ルールが分かりにくいことが問題になりがちです。「入力してよい」「社内専用環境なら入力してよい」「入力禁止」の3区分を、図面・品質データ・顧客情報など具体的な情報の種類で示します。利用ルールの作り方は生成AIの社内利用ルールで扱っています。

原因4(データ連携)は、汎用の対話AIの限界です。自社の手順書や過去の不具合事例を知らないAIは、現場の質問に答えられません。全業務を一度につなごうとせず、問い合わせの多い一つの業務(例:保全のトラブル対応)から、社内文書を参照するRAGを作ります。

原因5(効果)には、利用回数ではなく業務単位の効果を測って共有することが効きます。「不具合報告の作成時間が1件あたり何分短くなったか」のように、業務と時間を対にして示すと、管理職が部下に使わせる理由になります。

工場と本社で分けて考える

本社のオフィス業務と工場の現場業務では、定着の条件が違います。本社では1人1台のPCがあり、汎用の対話AIでも文書作成や翻訳に使えます。工場では、端末の制約に加えて、知りたいことの多くが自社の設備・製品に固有のため、社内データ連携がないと使われません。

このため、工場の定着は、端末の配置と社内データ連携をセットで計画する必要があります。推進体制の作り方は現場に生成AIを広げる推進体制で詳しく扱っています。

よくある質問

利用率の目標は何%に置けばよいですか?

全社一律の目標より、対象業務ごとに「その業務の担当者のうち何%が週1回以上使うか」を目標にするほうが実態に合います。効果の出る業務で使われているかを見てください。

研修をすれば使われるようになりますか?

一般的な使い方の研修だけでは定着しにくいです。令和8年版労働経済白書では、AIと働くための研修を受けたAI利用者は日本で26.7%と、OECD平均36.8%を下回っています。研修は必要ですが、自分の業務の雛形と組み合わせて行うことが大切です。

思考力が落ちるという懸念にはどう答えればよいですか?

アルサーガの調査でも、ネガティブな変化の1位は「思考力の低下」でした。AIの出力を確認する観点(数値、根拠、手順の順番)を雛形に組み込み、最終判断は人が行う運用にすることで、確認作業そのものを技能として残せます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。