規程を作る前に押さえる国内の枠組み

日本では、AI推進法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)が2025年5月28日に成立し、2025年9月1日に全面施行されました。第7条は、AIを活用する事業者に努力義務と、国・自治体の施策への協力義務を課していますが、罰則はありません。2025年12月19日には第13条に基づく「適正性指針」が決定され、AIガバナンス、透明性、安全性、事業継続、関係者への配慮の5分野を扱っています。こちらも法的拘束力はありません。

企業の規程づくりで参照される主な文書は、総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」、デジタル庁の「生成AI調達・利活用ガイドライン」などです。法律実務の解説では、企業の対応策として、AIポリシーの整備、説明可能性の確保、契約書の見直し、社内研修が挙げられています。

つまり、法律が細かな社内ルールを求めているわけではなく、各社が自社の業務に合わせて規程を作ることが期待されている状況です。AI推進法の内容はAI推進法とは、AI事業者ガイドラインの読み方はAI事業者ガイドラインを製造業で読むで詳しく扱っています。

雛形は4章立てで十分

生成AIの利用ガイドラインは、細かく書くほど読まれず、更新もされなくなります。次の4章に絞ると、現場にも伝わりやすく、見直しもしやすくなります。

生成AI利用ガイドラインの4章構成 第1章利用目的使ってよい業務使わない業務許可ツール一覧 第2章入力区分機密区分×環境顧客図面の扱い個人情報 第3章出力の確認責任確認者と範囲品質・安全文書対外文書の表示 第4章ログと運用ログ保存事故時の報告見直し周期
生成AI利用ガイドラインの4章構成。製造業特有の内容は各章に追記する。

第1章 利用目的

生成AIを使ってよい業務と、使わない業務を明記します。製造業では「品質の合否判定、安全に関わる判断、設備の制御条件の決定には、生成AIの出力を根拠として使わない」という線引きを入れておくと、現場の判断がぶれません。会社が契約したツールの一覧と、それぞれの用途もこの章に置きます。

第2章 入力情報の区分

社内の機密区分ごとに、入力してよいツール・環境を対応させます。製造業で追記すべきは次の点です。

  • 顧客から預かった図面・仕様は、顧客との秘密保持契約の条件を優先する
  • 輸出管理の対象になる技術情報は、該非判定の結果に応じて扱いを決める
  • 作業者の映像・音声など個人情報を含むデータの扱い

入力区分の考え方は生成AIの情報漏えい対策で詳しく扱っています。

第3章 出力の確認責任

生成AIの出力を業務に使うとき、誰が何を確認するかを定めます。「最終的な責任は利用者にある」と書くだけでは不十分で、文書の種類ごとに確認の範囲を決めます。

出力の種類確認者確認の範囲
社内メール・議事録作成者内容の正しさ
作業手順書・検査基準の下書き承認者(既存の文書管理規程の承認者)全文。数値・安全文言は原典と照合
顧客への回答・報告書作成者と上長全文。数値と事実関係
プログラム・PLCコードレビュー担当既存のレビュー・試験手順をそのまま適用

既存の文書管理規程や設計審査の手順がある場合は、生成AIの出力にも同じ手順を適用すると書けば足ります。新しい承認フローを作る必要はありません。

第4章 ログと運用

利用ログの保存期間と目的、誤って機密情報を入力したときの報告窓口、規程の見直し周期を定めます。報告した人を責めない方針も明記します。

製造業で見落としやすい追記事項

雛形の4章に加えて、製造業では次の項目を検討します。

  • 現場端末と個人端末:現場で撮影した図面・設備の写真を個人のスマートフォンで生成AIに入れない
  • 協力会社・派遣社員:同じ規程を適用するか、別途の誓約書で定めるか
  • 海外拠点:現地の法規制(データ越境の規制など)との関係。中国拠点では生成AIサービスの備案(届出)制度も関係する
  • AIエージェント:MESやERPを操作するエージェントを導入する場合の権限と承認

半年ごとの見直しを前提にする

生成AIのサービスは機能や契約条件の変更が速く、国の指針も更新されます。AI基本計画も「当面毎年変更」とされています。規程には見直しの周期(例:半年ごと)と担当部署を書き、見直しのたびに次の点を確認します。

  1. 許可ツール一覧の追加・削除
  2. 契約条件(学習利用、保存地域)の変更の有無
  3. ログから見えた、ルールが守られていない業務や部署
  4. 国内外の規制・指針の変更

規程をWord形式の雛形から作りたい場合は、生成AI社内利用ルールひな形を利用できます。

よくある質問

AI推進法に違反すると罰則がありますか

AI推進法に罰則はありません。ただし第16条に基づく指導・助言・情報提供の対象になり、事業者名の公表が検討されうるとする解説があります。罰則の有無にかかわらず、取引先や顧客から利用ルールの提示を求められる場面が増えています。

中小製造業でも規程は必要ですか

必要です。分量は少なくてよく、使ってよいツール、入力してはいけない情報、確認の責任者の3点を1〜2ページにまとめるだけでも、顧客監査や取引先からの問い合わせに答えられます。

社員の生成AI利用を評価に反映させてよいですか

利用を推奨する目的で、成果の共有を評価することは考えられます。ただしログの内容を個人の評価に使う場合は、目的を規程に明記し、従業員に説明して合意を得る必要があります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。