4社を同じ軸で並べる

中国の大手クラウド・ITベンダーは、いずれも工業分野にAIを展開していますが、強みと公開情報の量は大きく異なります。

項目阿里云腾讯云百度智能云浪潮(浪潮云洲)
基盤通义千问(Qwen)智能知识引擎开物工业互联网平台浪潮云洲工業大模型、海岳大模型3.0
代表事例伊利のサプライチェーンBIエージェント比亚迪の車両診断(VDS)音声アシスタント恒逸化纤のAI検査(2022年情報)黑猫集团、山东金信空调
強み汎用モデルと業務データの照会知識Q&Aアプリの構築工業インターネット平台と設備接続業界エージェントと備案の取得
公開情報の時点2025年9月2024年3月2022年7月中心2025年4月〜2026年1月

(出典:经济日报/新华网2025年9月18日、腾讯研究院2024年3月、数英2022年7月28日、科技日报2025年4月22日、人民日报/新华网2026年1月9日)

表の最下行が示すとおり、公開情報の新しさには差があります。百度の工業AIについて今回確認できた情報は2022年時点のものが中心で、最新の状況を反映していない可能性があります。比較に使うときは、各社の最新の発表を別途確認してください。

各社の工業AIの中身

阿里云:通义千问ベースのBIエージェント

阿里云の工業分野の代表事例は、乳業大手の伊利集团が通义千问を基盤に構築したBIエージェントです。以前は約2週間かかっていたサプライチェーンのデータ照会が、自然言語ですぐ返るようになり、サプライチェーン業務の約70%をカバーするとされます(经济日报/新华网、2025年9月18日)。

この事例は、生成AIが生産工程ではなく、サプライチェーンの照会業務から入った典型です。照会が速くなった理由は、モデルの性能だけでなく、照会対象のデータがあらかじめ整理されていたことにあると考えられます(推測)。自然言語でデータベースを照会する仕組みの前提はMESデータに自然言語で質問するで扱っています。

腾讯云:知識Q&Aの構築基盤

腾讯云は、比亚迪と車両診断システム(VDS)の音声アシスタントを、智能知识引擎上に構築しました(腾讯研究院ほか「工业大模型应用报告」、2024年3月)。智能知识引擎は、知識Q&Aアプリを作るためのPaaSです。整備・診断の手順書や過去事例を検索して答える、いわゆるRAG(検索拡張生成)型の用途です。

百度智能云:开物工業インターネット平台

百度智能云の开物工业互联网平台は、2022年に国家級の跨行业跨领域平台(双跨平台)に選ばれました。16地域・20超業界・300超の標杆企業に展開しているとされます(数英、2022年7月28日、2022年時点の情報)。化学繊維の恒逸化纤では、AI検査が1個2.5秒で、人手より70%効率が高いとされました。

浪潮:備案の取得と業界エージェント

浪潮云洲の工業大模型は、深度合成算法の備案と、生成式AIサービスの備案の両方を取得しています。20超の業界エージェントを持ち、大企業40超と中小企業1,000超に提供しているとされます(经济日报/新华网、2025年9月18日)。浪潮は2025年4月18日に「海岳大模型3.0」と「浪潮海岳商业AI」も発表しました(科技日报、2025年4月22日)。

事例としては、黑猫集团で新製品の品質合格率が15%、協同効率が8%上がったこと、山东金信空调でスマートファンにより設備保守の周期が40%短くなったことが報じられています。

工業向けの大規模モデルでも一般向けと同じ備案ルールに従っている点は、日系工場が中国で生成AIを社内外に提供するときの参考になります。詳しくは中国で工場向け生成AIを使うときの「備案」を参照してください。

4社の外側にいるプレーヤー

工業AIの選択肢は4社に限られません。第四范式(4Paradigm)は2024年の収益が52.61億元(前年比25.1%増)で、先知AI平台が36.76億元と全体の69.9%を占め、製造業のMES管理など数百件のエンタープライズAIエージェントを納入したとされます(第一财经、2025年3月31日)。汉得信息は、製造・サプライチェーン・財務を担う「灵瀚」エージェント群を持つB2B向けAIシステム「得霖」を展開しています(新华网、2026年3月9日)。

MESやERPなど既存の業務システムとの連携を重視するなら、クラウド大手より、業務システム側に強いこうした企業のほうが合う場合もあります。

日系工場が選ぶときの確認点

用途、データの所在、備案と越境、日本本社との連携の4段階の確認 1. 用途照会・Q&A・検査 2. データの所在MES・ERP・文書 3. 備案・越境規制への適合 4. 本社連携結果の共有方法
中国工場で大手クラウドの工業AIを選ぶときの確認の順序

よくある質問

日本本社が使っているクラウドと同じものを中国工場でも使うべきですか

運用の統一という利点はありますが、中国国内での提供状況、備案、データ越境の規定によっては、中国国内のクラウドを使うほうが現実的な場合もあります。用途ごとに、データを中国国内で完結させるか、日本と共有するかを先に決めてください。

华为の盘古は比較に入らないのですか

华为は工業向けの予測大模型・CV大模型の比重が大きいため、別の記事で扱っています。华为盘古大模型5.5の工業応用を参照してください。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。