盘古5.5は用途別モデルの集合

华为云は2025年6月20日、開発者会議HDC2025で盘古大模型5.5を発表しました(深圳新闻网、2025年6月20日)。盘古は1つのモデルではなく、言語、予測、CV(画像認識)などの用途別モデルの集合です。华为によると、盘古5.5の言語系には7,180億パラメータの「深思考」モデルがあります(华为スポンサー記事、Mining Technology、2025年12月16日)。

工業応用で中心になるのは、予測大模型とCV大模型の2つです。盘古は過去1年で30超の業界、500超のシーンに導入されたとされます(深圳新闻网)。

モデル構造入力主な用途
予測大模型triplet transformer工程パラメータ表、設備ログの時系列、検査画像品質・歩留り予測、工程最適化
CV大模型300億パラメータのMoE画像・映像外観検査、故障・異常の識別
言語系(深思考)7,180億パラメータ文書・対話知識検索、文書生成

予測大模型:3種類のデータを1つのモデルで扱う

予測大模型の特徴は、triplet transformerという構造で、性質の違う3種類のデータを統合して処理する点です。工程パラメータ(表形式のデータ)、設備ログ(時系列)、検査画像(画像)を同時に入力として扱います。

工程パラメータ、設備ログ、検査画像の3入力が予測大模型に入り、品質予測を出す構成 工程パラメータ(表) 設備ログ(時系列) 検査画像 予測大模型triplet transformer 品質・歩留り予測工程条件の最適化 3つの入力が同じ製品・ロット・時刻で紐づいていることが前提
盘古予測大模型の入力の考え方。表・時系列・画像の3種類を統合して予測する。

従来の工業AIでは、工程データの回帰モデル、設備の異常検知モデル、画像の検査モデルを別々に作るのが一般的でした。3種類を1つのモデルで扱えれば、例えば「この温度条件とこの設備状態のときに、どんな外観不良が出やすいか」を同時に学習できます。

ただし、これが機能するには、3種類のデータが同じ製品・ロット・時刻で紐づいていることが前提です。工程パラメータと検査画像が別のシステムにあり、ロット番号で結合できない状態では、統合モデルの価値は出ません。

CV大模型:故障サンプルを生成して識別対象を広げる

CV大模型は300億パラメータのMoE(Mixture of Experts。入力に応じて一部の専門家モデルだけを動かす構造)です。油気・交通・炭鉱向けに、故障のサンプル画像を生成して学習に使い、識別できる故障の種類を増やしたとされます(深圳新闻网)。

製造業の外観検査では、不良品の画像が少ないことが学習の壁になります。生成した不良画像で学習データを補う手法は、日本でも研究・実用化が進んでいる領域です。ただし、生成画像で学習したモデルの精度は、実際の不良画像での評価で確認する必要があります。

宝钢の事例:ベンダー発表で第三者検証はない

盘古の工業事例としてよく引かれるのが、宝钢(宝山钢铁)の熱延ラインです。仕上げ幅の予測精度を5%超高め、歩留りを0.5%向上させ、年間9,000万元超の増収になったとされます(天下工厂产业研究院、2026年7月7日)。

鉄鋼の熱延で歩留り0.5%は、生産量が大きいため金額では大きくなります。歩留り改善の効果を金額に換算するときは、生産量と製品単価の前提で結果が大きく変わる点にも注意が必要です。鉄鋼のAI活用全般は鉄鋼業のAIで扱っています。

华为はデータ基盤にも手を広げている

华为は2026年3月、企業のDXを支えるAIデータプラットフォームを発表しました(经济参考报/新华网、2026年3月9日)。予測大模型が3種類のデータの統合を前提にしている以上、モデルを売るだけではなく、データを集めて整える基盤まで提供しなければ成果が出ない、という判断と読めます(推測)。

中国の工業インターネット研究院の院長が「智能化改造の投資の50〜60%はデータエンジニアリング」と述べていることとも整合します(中国当局「AI投資の50〜60%はデータ工学」を参照)。大規模モデルの提供者がデータ基盤に手を広げる流れは、欧米のクラウド各社にも共通しています。

日本の工場が同種の仕組みを考えるとき

盘古は中国国内向けのサービスで、日本での提供状況は今回の調査では確認できていません。日本の工場にとっての価値は、製品そのものより、「表・時系列・画像を統合する」という設計の考え方にあります。

時刻のずれへの対処は工場データの時刻ずれ対策、品番・ロットでの紐づけはMESとAIの関係を参照してください。

よくある質問

盘古は日本の工場でも使えますか

今回の調査では、盘古の工業モデルの日本での提供状況は確認できていません。中国の現地法人で使う場合は、生成AIサービスの備案やデータ越境の規定もあわせて確認が必要です。

triplet transformerは公開された技術ですか

华为の発表で構造名が示されていますが、詳細な論文や仕様は今回参照した出典では確認できていません。構造名だけで性能を判断せず、自社データでの評価で判断してください。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。