「95%失敗」は損益への急速な効果が出なかったという意味

米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究プロジェクトNANDAは、2025年に報告書「The GenAI Divide: State of AI in Business 2025」を公表しました。Fortuneが2025年8月18日に報じたことで、「生成AIパイロットの95%が失敗」という見出しが広まりました。

報告の調査方法は次の3つです(Fortuneの報道による)。

  • 150人へのインタビュー
  • 350人の従業員調査
  • 300件の公開されたAI導入事例の分析

ここでの「失敗」は、技術的に動かなかったという意味ではありません。損益(P&L)に急速な効果を出した生成AIパイロットが約5%にとどまり、残りは停滞したという意味です。チャットボットは動いているが利益には表れていない、試行は終わったが本番業務に組み込まれていない、という状態も「95%」に含まれます。

損益に急速な効果を出した生成AIパイロット
約5%
MIT NANDA「The GenAI Divide」(Fortune、2025年8月18日報道)
専門ベンダーからの購入・提携の成功率
約67%
同上
内製の成功率
約3分の1
同上
AIコーディングで内製しソフト購入を見送った経験がある企業
32%
McKinsey The state of AI in 2026(2026年8月)

購入・提携の成功率は内製の約2倍

報告で製造業の実務に最も関係するのは、調達方法による成功率の差です。専門ベンダーから購入するか提携した場合は約67%が成功し、社内で内製した場合は約3分の1の成功率にとどまりました。単純に比べると、購入・提携は内製の約2倍の成功率です。

この差の理由について、報告の詳細は公表資料の範囲では確認できません。ただ、製造業の現場から見ると、次のような要因が考えられます(推測)。

  1. 専門ベンダーは、同じ業務領域で複数社の導入を経験しており、失敗パターンを先に知っている
  2. 内製では、モデルの精度に注力するあまり、業務フローへの組み込みや現場の運用設計が後回しになりやすい
  3. 購入した製品には、権限管理・ログ・更新といった運用の仕組みが最初から入っている

McKinsey 2026は逆の動きを示した

MITの報告から1年後、McKinseyの「The state of AI in 2026」(2026年8月25日、97か国1,719人)は、別の方向の数字を示しました。回答者の32%が、エージェント型のコーディングツールで内製できたためにソフトウェアの購入を見送った経験があると答えています。

AIでコードを書けるようになったことで、以前なら買っていた小さな業務ツールを社内で作れるようになった、という動きです。McKinseyはこれをソフトウェアベンダーへの逆風と位置付けています。

つまり、2025年の「買うほうが成功する」と、2026年の「AIで作れるから買わない」が同時に存在しています。ベンダー選定論の前提が揺れている状態です。

縦軸に業務への組み込みの深さ、横軸にデータの固有性をとった4象限の図 製品を購入+設定例:保全記録の検索、問い合わせ対応 専門ベンダーと提携開発例:MES連携の品質分析・指示生成 汎用ツールをそのまま利用例:議事録・翻訳・文書下書き 内製(AIコーディング活用)例:部署内の集計・可視化ツール データの固有性(汎用 → 自社固有) 業務への組み込み(浅い → 深い)
買うか作るかの判断は、データの固有性と業務への組み込みの深さで分かれる。

製造業がこの報告から読み取るべきこと

MITとMcKinseyの数字を合わせて読むと、製造業の判断軸は「買うか作るか」の二択ではなく、用途ごとに使い分ける形になります。

  • 汎用的な文書業務(議事録、翻訳、メール下書き):汎用の生成AIツールで足りる。個別開発する理由はほとんどない
  • 社内文書の検索(手順書、保全記録):RAG(検索拡張生成)製品を購入し、文書の整理とメタデータ付けに工数をかける
  • MES・品質データと連携する業務(不良解析、作業指示の生成):データモデルを理解した専門ベンダーとの提携開発が向く。ここで内製すると、データ連携と運用の設計で詰まりやすい
  • 部署内の小さなツール:AIコーディングで内製できる範囲が広がっている

判断の詳細はAIは内製か外注か、パッケージとスクラッチの使い分けはパッケージ製品かスクラッチ開発かで扱っています。

数字を引用するときの注意

この報告は日本語圏でも「95%失敗」として広く引用されていますが、次の点を押さえておきます。

  1. 一次資料はMIT NANDAの報告書で、日本語記事の多くはFortuneなどの報道を経由した二次情報です
  2. 対象は製造業に限らない全産業で、製造業だけの成功率は公表資料からは確認できません
  3. 「失敗」は損益への急速な効果がないことを指し、技術的な失敗ではありません
  4. サンプルはインタビュー150人・従業員調査350人・公開事例300件で、統計的な代表性には限界があります

稟議資料で引用する場合は「MIT NANDAの2025年の報告によれば、損益に急速な効果を出した生成AIパイロットは約5%」のように、定義を含めて書きます。

よくある質問

MITの「95%失敗」は製造業の数字ですか?

全産業の数字です。報告は150人へのインタビュー、350人の従業員調査、300件の公開事例分析に基づいており、製造業だけを切り出した数字は公表資料では確認できません。

生成AIは内製より外部から買うべきですか?

用途によります。MITの報告では購入・提携の成功率が約67%、内製が約3分の1でしたが、McKinseyの2026年調査では32%がAIコーディングで内製しソフト購入を見送っています。汎用業務は購入、製造データと深く連携する業務は専門ベンダーとの提携、小さな部署ツールは内製と使い分けます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。