製造業は「AIを使う側」として読む

AI事業者ガイドラインは総務省と経済産業省が策定した文書で、AIに関わる事業者を立場ごとに整理して、それぞれに求められる取り組みを示しています。製造業の多くは、ベンダーが作ったAIを工場で使う立場、つまり利用者です。自社でモデルを作る場合や、AIを組み込んだ製品を顧客に提供する場合は、開発者や提供者としての項目も関係してきます。

総務省のAIガバナンス検討会の資料(2025年12月2日)は、国内のAI関連の指針として、このガイドラインのほか、デジタル庁の生成AI調達・利活用ガイドライン、総務省の「生成AIとセキュリティのガイドライン」(2025年度内に公表予定とされていた)を並べて整理しています。ガイドラインは改訂されることがあるため、参照するときは版と日付を確認してください。

製造業の立場とガイドラインの読み方 利用者ベンダーのAIを工場で使う外観検査・予知保全生成AIツール 開発者を兼ねる自社でモデルを学習・作成する内製の検査AI社内RAG 提供者を兼ねるAIを組み込んだ製品を販売するAI搭載の機械外販するツール
製造業の立場とガイドラインの関係。多くは利用者だが、自社開発やAI搭載製品の販売では他の立場も兼ねる。

利用者として押さえる10の要点

以下は、ガイドラインが利用者に求める趣旨を、本サイトが製造業の業務に置き換えて整理したものです。ガイドラインの条文の要約ではありません。

#要点工場での具体的な行動
1使う目的を決めてから使うAIで判定・予測する範囲を工程と品番で限定する。目的外の用途に流用しない
2提供者の示す使い方の範囲を守るベンダーが示した前提条件(照明、ワークの種類、データの形式)の外で使わない
3入力データの品質に責任を持つ撮像条件、センサーの校正、マスタの正しさを維持する
4出力を人が確認する範囲を決めるAIの判定のうち、人が再判定するものと、そのまま使うものの線引きを文書にする
5個人に関わるデータに配慮する作業者の映像・音声・位置データを扱う場合、目的・保存期間・アクセス権を決め、本人に説明する
6機密情報を守る図面、製造条件、取引先から預かったデータを生成AIに入力してよいかのルールを作る
7セキュリティを確保するAIの基盤とOTネットワークの接続を設計し、アクセス権を最小にする
8記録を残すどのモデルの版で、どのデータに、どう判定したかを、ロットと紐付けて残す
9関係者に説明できるようにする顧客監査や品質問題のとき、AIの使い方と判定の根拠を説明できる資料を用意する
10使う人を教育するAIの限界、誤判定の例、禁止事項を利用者に教える

8と9は、製造業で特に重要な点です。外観検査AIの判定結果がロットと紐付いていないと、品質問題が起きたときに、どの製品をどのモデルで判定したかを追えません。判定結果の記録の設計はAIの推論結果をMESに書き戻す設計を参照してください。

AI推進法・適正性指針との関係

AI推進法(2025年9月1日全面施行)は、活用事業者に努力義務と協力義務を課しています。第13条に基づく適正性指針(2025年12月19日決定)は、AIガバナンス、透明性、安全性、事業継続、関係者への配慮の5分野を扱い、法的拘束力はありません(BUSINESS LAWYERSの解説による)。

実務では、法律が方向を示し、適正性指針とAI事業者ガイドラインがその具体的な取り組みの参考になる、という関係で捉えると整理しやすくなります。上の10項目は、適正性指針の5分野にもおおむね対応します。法律の要点はAI推進法とはで扱っています。

社内でガイドラインを使う手順

ガイドラインは分量が多いため、全文を社内規程に写すのは現実的ではありません。次の手順で、自社の規程とチェックリストに落とし込みます。

  1. 自社の立場を決める:利用者だけか、開発者・提供者を兼ねるか。兼ねる場合は該当部分も読む
  2. AI台帳を作る:社内で使っているAIを一覧にし、上の10項目のどれが関係するかを付ける
  3. 既存の規程に組み込む:品質マニュアル、情報セキュリティ規程、個人情報保護規程の中に、AIに関する条項を追加する
  4. 年1回見直す:ガイドラインや関連する指針の改訂を確認し、規程を更新する

よくある質問

AI事業者ガイドラインに従わないと罰則がありますか

ガイドラインは法的拘束力のある規制ではありません。ただし、問題が起きたときに、社会的に求められる対応をしていたかを説明する際の参考になります。個人情報保護法などの法令は別途適用されます。

生成AIのツールを使うだけでもガイドラインは関係しますか

関係します。生成AIのツールを業務で使う場合、利用者として、入力する情報の管理や出力の確認などが求められます。具体的な社内ルールは生成AIの社内利用ルールの作り方を参照してください。

最新版はどこで確認できますか

総務省と経済産業省のウェブサイトで公表されています。改訂の履歴と、改訂で変わった箇所を確認してから社内規程に反映してください。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。