要因分析は4段階で絞り込む

不良の要因分析でAI(機械学習)が力を発揮するのは、変数が多く、関係が非線形で、人が散布図を1枚ずつ見ていられない場面です。ただしその前に、もっと単純な分析で見つかる原因を潰しておかないと、モデルはその単純な差を学ぶだけで終わります。

相関、層別、多変量モデル、検証実験の4段階を矢印でつないだ流れ図 1. 相関散布図・相関行列トレンド 2. 層別設備・ロット作業者・材料 3. 多変量モデルPLS / GBDTSHAPで寄与 4. 検証条件を振る実験対策の効果確認 観測データは「候補」まで。因果の確定は実験で行う 前提:測定誤差の確認(ゲージR&R)と、ロット単位の工程条件・検査結果の紐付け
要因分析の4段階。各段階で原因が見つかれば、次の段階に進まずに対策と検証へ移る。

段階1と2:相関と層別で「差がどこにあるか」を見る

段階1では、不良率の推移と主要な工程変数のトレンドを並べ、変化の時期が一致するものを探します。材料ロットの切替、設備の保全、季節の変化などと不良の増加が同じ時期なら、それだけで有力な候補になります。

段階2の層別は、要因分析で最も費用対効果が高い作業です。同じ品番を、設備別・金型別・材料ロット別・シフト別・作業者別に分けて不良率を比べます。複数ある設備のうち1台だけ不良率が高いなら、機械学習を使うまでもなく、その設備を調べるべきです。

層別に必要なのは、不良品が「どの設備で、どの材料ロットで、いつ、誰が作ったか」を引ける状態です。これはMESの実績データ(作業指示、ロット、設備、作業者)と検査結果がつながっていれば簡単にできます。逆に、検査記録が紙で、どのロットの不良か追えない工場では、ここで止まります。紐付けの設計は品質AIの前提はトレーサビリティで扱っています。

段階3:PLSと勾配ブースティングの使い分け

多変量モデルの代表は次の2つです。

手法向いている場面結果の読み方注意点
PLS(部分最小二乗回帰)変数が多く互いに相関が強い工程(化学、プロセス系)回帰係数とVIP(変数重要度)で効いている変数を見る線形の関係しか表せない
勾配ブースティング(LightGBM等)+SHAP非線形な関係、変数の組合せで不良が出る場合SHAP値で各変数が予測にどう寄与したかを見る過学習しやすく、相関の強い変数間で重要度が分散する

PLSは古くから化学工学で使われてきた手法で、相関の強い変数をまとめて扱えます。勾配ブースティングは「温度が高く、かつ湿度も高いときだけ不良が出る」といった組合せの効果を拾えます。両方を試して、共通して上位に出る変数を候補とするのが堅実です。

モデルの目的は予測精度を競うことではなく、原因の候補を絞ることです。精度が高くても、上位の変数が「検査日」や「ロット番号」のような識別子なら、それは層別で見るべき差を学んでいるだけです。

段階4:検証実験で因果を確かめる

候補変数が絞れたら、その変数だけを意図的に振った試作や、条件を変えた量産ロットで不良率が変わるかを確認します。変数が複数ある場合は実験計画法を使います。条件の探索にはベイズ最適化も使えます(ベイズ最適化で条件出しを参照)。

検証で効果が確認できたら、その変数の管理範囲を決め、工程監視に組み込みます。多変量SPCで関係の崩れを監視する、単変量の管理図に管理限界を追加する、などの方法があります。

化学プロセスのベンチマークと実工場の違い

要因分析や故障診断の手法研究では、Tennessee Eastmanプロセス(Downs & Vogel, 1993)がよく使われます。52の測定変数と21種類の故障タイプを持つ化学プロセスのシミュレーションです。ベンチマークでは「どの故障か」の正解が付いていますが、実工場では不良の原因に正解ラベルがありません。そのため実工場の要因分析では、モデルの精度より「現場の技術者が納得し、実験で確かめられる候補を出せたか」で評価するのが現実的です。

データ準備に時間がかかるのも実工場の特徴です。Anacondaの2022年の調査(133か国、3,493人)では、データサイエンティストは時間の約38%をデータ準備とクレンジングに使い、モデルの選択・学習・デプロイには約26%しか使っていないと報告されています。製造データでは時刻ずれやマスタ不整合が加わるため、この比率はさらに準備側に寄ると考えるべきです(推測)。

よくある質問

不良品のデータが少ない場合でも要因分析はできますか

不良が数件しかない場合、多変量モデルは安定しません。その場合は不良品と同時期の良品を比較する層別と、工程変数のトレンド比較を中心にします。不良率ではなく、寸法などの連続的な品質値を目的変数にすると、データ数の問題を和らげられます。

要因分析に生成AIは使えますか

数値データの要因分析そのものは、PLSや勾配ブースティングの方が適しています。生成AIは、過去の不具合報告や対策記録から類似事例を探す用途で役立ちます。詳しくは品質クレーム分析の記事を参照してください。

どのくらいの期間のデータが必要ですか

不良が増えた期間とその前の比較期間を含め、材料ロットや季節の変化が一巡する期間があると層別がしやすくなります。工程によって異なりますが、数か月分を目安にしてください。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。