モデルはOSSで作れる

外観検査AIのモデル部分は、OSSで作れる時代になっています。代表的なのがanomalibで、Intel系のOSSとして公開されている異常検知ライブラリです。PaDiM、PatchCore、CFLOW-AD、DFM、STFPM、GANomalyなどの良品学習手法を同じインターフェースで実装しており、OpenVINOとNNCFで量子化・最適化してCPUで推論させることもできます(anomalib論文、arXiv 2202.08341)。EfficientADのような高速な手法も実装されています。

ただし、OSSの実装が論文と同じ精度を出すとは限りません。anomalibの再現ベンチマーク(MVTec平均)では、PatchCoreが画像0.981・ピクセル0.980だった一方、PaDiMは画像0.891と論文値(97.9%)より低い結果でした。内製では、手法の選定も自社データでの比較が前提になります。

anomalibが実装する主な良品学習手法
6手法以上
anomalib論文(arXiv 2202.08341)。PaDiM・PatchCore・CFLOW-AD・DFM・STFPM・GANomalyなど
anomalib再現のPatchCore 画像AUROC
0.981
同論文、MVTec平均
anomalib再現のPaDiM 画像AUROC
0.891
同論文。論文値97.9%より低い

内製の5つの壁

モデルが動いた後に、内製プロジェクトが止まりやすい壁は5つあります。

内製外観検査AIの5つの壁とモデル開発の位置 壁1撮像系 モデル(OSS) 壁2推論環境 壁3再学習運用 壁4保守体制 壁5品質保証 OSSが助けてくれるのは中央の小さな箱だけ
内製の5つの壁。モデル開発は全体の一部で、前後の工程と運用が内製の成否を決める。

壁1:撮像系

精度の大部分は撮像系で決まります。照明の方式と角度、カメラとレンズ、露光、ワークの位置決め治具を設計できる人がいないと、モデルをどれだけ調整しても精度は上がりません。生産技術部門に画像処理の経験者がいるかが、内製の第一条件です。

壁2:推論環境とライン組込み

学習したモデルを、ラインのタクトに間に合う速度で動かし、判定結果をPLCに返して排出機構を動かす必要があります。推論PCの選定、カメラとの接続、PLCとの通信、停電やネットワーク断のときの動作まで設計します。データサイエンスの知識だけでは足りず、制御とシステムの知識が要ります。

壁3:再学習の運用

量産では、材料ロットや品種の追加、治具の交換で良品の見た目が変わり、再学習が必要になります。誰が、どのデータで、どの手順で再学習し、新しいモデルを誰が承認して切り替えるかを決めなければなりません。手順が担当者の頭の中にしかないと、担当者の異動で再学習が止まります。

壁4:保守体制

OSSのバージョンアップ、Pythonや依存ライブラリの更新、推論PCのOS更新、GPUドライバの互換性への対応が続きます。外注品ならベンダーが担う部分を、自社で引き受けることになります。夜間や休日にラインが止まったとき、誰が対応するかも決めておきます。

壁5:品質保証部門への説明

AIの判定で出荷可否を決める以上、品質保証部門と顧客への説明が要ります。評価データと評価方法、モデルの版の管理、変更時の検証手順を文書化し、変更管理の仕組みに組み込む必要があります。外注品でも必要なことですが、内製ではこの文書も自社で作ります。

必要な体制

内製で外観検査AIを量産ラインに載せるには、少なくとも次の役割が必要です。1人が複数を兼ねてもかまいませんが、役割として空いている部分があると止まります。

役割担当すること主な所属
検査仕様の責任者不良定義、限度見本、許容見逃し率の決定品質保証
撮像・機構の担当照明・カメラ・治具の設計と維持生産技術
モデル開発の担当手法の比較、学習、閾値設計、評価生産技術またはDX推進
システム担当推論環境、PLC・MES連携、保守情報システムまたは制御技術
現場の運用担当再判定、データ収集、異常時の一次対応製造

モデル開発の担当には、Pythonと機械学習の基礎に加えて、画像の前処理と評価指標の理解が必要です。育成の考え方は製造業のAI人材育成で扱っています。

内製と外注を分ける判断基準

内製が向くのは、同じ種類の外観検査を多くのライン・品番に展開する計画があり、撮像と制御の知見を社内に持っている、または育てる意思がある場合です。横展開で同じ仕組みを使い回せるほど、内製の投資は回収しやすくなります。

逆に、検査対象が1〜2ラインに限られる、撮像系の経験者がいない、保守を担う人員が確保できない場合は、外注やパッケージ製品のほうが総費用は小さくなります。中間の選択肢として、撮像系とライン組込みは外注し、モデルの再学習と運用だけを社内で持つ形もあります。内製・外注の一般的な判断基準はAIは内製か外注かにまとめています。

よくある質問

anomalibは商用で使えますか?

anomalib自体はOSSとして公開されていますが、利用時には最新のライセンス条項を確認してください。また、公開データセットのなかには、MVTec LOCO ADのように商用利用できないライセンス(CC BY-NC-SA 4.0)のものもあります。事前学習済みモデルや学習データのライセンスも合わせて確認が必要です。

GPUは必須ですか?

学習にはGPUがあると速く進みます。推論は、手法とタクトによってはCPUでも間に合います。anomalibはOpenVINOによるCPU向けの最適化に対応しているため、タクトに余裕のある工程ではCPUの産業用PCで運用する選択肢もあります。

内製の場合、どのくらいの期間で本番に載せられますか?

撮像系と検査仕様が固まっていれば、モデルの開発自体は短期間で進みます。期間を左右するのは、データ収集、ライン組込み、並行運用、品質保証部門の承認です。初めての内製では、PoCより本番化のほうに時間がかかると考えてください。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。