製造業の翻訳で生成AIが間違えやすい3つのこと

生成AI翻訳は、一般的な文章ではすでに実用水準にあります。製造業の技術文書で問題になるのは、文章の自然さではなく次の3点です。

  1. 用語の揺れ。同じ部品名や工程名が、文書ごと・段落ごとに違う訳語になる。社内で「バリ」と呼ぶものが、ある箇所ではburr、別の箇所ではflashになる
  2. 数値と単位の扱い。単位換算を勝手に行う、公差の書き方を変える、桁区切りを訳先の慣習に合わせて誤る
  3. 否定と条件の取り違え。「〜しないこと」「〜の場合を除き」のような安全・品質上の重要な条件が、訳文で弱まったり逆転したりする

いずれも訳文だけを読むと自然なので、原文を読める人が確認しないと見落とされます。

文書の種類ごとの使い分け

文書生成AIの使い方人の確認
取扱説明書・保全マニュアル下訳に使う。用語集を必ず適用する安全・警告の文言は全数確認。仕向地の規制に関わる表記は専門家が確認
図面の注記・技術仕様短い注記は用語集との一致を優先する公差・材質・表面処理の指示は全数確認
海外工場への作業指示・変更連絡下訳と、受け手からの質問への回答に使う変更内容の要点は送り手が対訳で確認
社内メール・会議資料そのまま使ってよい場面が多い契約・品質判断に関わる部分のみ確認
不具合報告・顧客クレーム内容把握の参考訳に使う顧客への回答文は人が最終確認

国産の選択肢としては、Preferred Networks(PFN)の「PLaMo翻訳」があります。PFNは2026年10月7日、第3世代のPLaMoを適用した大型アップデートで53言語に対応し、オンライン会議翻訳を正式に追加したと発表しました。10月6日には、国産基盤モデル「PLaMo 3.0 Prime」とPLaMo翻訳をMicrosoft Foundryで提供開始し、企業専用の閉域環境で使えるとしています。図面や技術文書を社外に出す範囲を絞りたい会社にとって、提供形態は選定の軸になります。

品質管理の5点

生成AI翻訳の品質管理の流れ 原文版・文書番号 用語集・禁止訳 生成AI翻訳 自動チェック数値・用語一致 対訳で人が確認 承認版 修正した訳語は用語集に戻す
生成AI翻訳の品質管理は、用語集を入口に、対訳での確認と記録を出口に置く。

1. 用語集を固定して毎回適用する

部品名、工程名、不良名、設備名について、言語ごとの訳語を決めた用語集を作り、翻訳のたびにプロンプトや翻訳エンジンの用語集機能で適用します。「使ってはいけない訳語」も併記すると、揺れが減ります。不良名は社内の不良コード体系と対応させておくと、海外拠点の品質データとも整合がとれます。

2. 原文と訳文を対訳で並べる

確認者が見るのは、訳文単体ではなく、原文と訳文を段落ごとに並べた対訳です。訳文だけを読む確認では、自然に読める誤訳を見逃します。

3. 数値・単位・記号は機械的に照合する

原文と訳文に含まれる数値、単位、型番、規格番号を抽出し、一致しているかをプログラムで照合します。LLMに確認させるより、正規表現などで機械的に照合するほうが確実です。

4. 安全・品質に関わる文言は人が全数確認する

警告・注意の文言、禁止事項、公差や検査基準の指示は、生成AIの訳をそのまま使わず、原文を理解できる担当者が全数確認します。確認済みの定型文は翻訳メモリとして蓄積し、次回以降は生成させずに再利用します。

5. どの版の原文を誰が確認したかを記録する

翻訳文書は、原文の版番号と紐付けて管理します。原文が改訂されたのに訳文が古いまま、という事故は生成AI以前からある問題で、翻訳が速くなるほど版の不一致は起きやすくなります。作業手順書の版管理は作業手順書RAGの作り方と同じ考え方で管理できます。

海外工場への作業指示で注意すること

海外工場への作業指示や設計変更の連絡は、翻訳の誤りがそのまま不良につながる文書です。送り手が日本語で書いた指示を生成AIで訳し、受け手が現地語で読む流れでは、両者とも誤訳に気づけません。

効果的なのは、送り手側で「訳文をもう一度日本語に戻して意味が変わっていないか」を確認する逆翻訳と、変更点の要点を箇条書きの対訳で添えることです。現場の外国人作業者向けの運用は外国人作業者への多言語作業指示で詳しく扱っています。

よくある質問

専門の翻訳会社への依頼はなくなりますか

社内向け文書や下訳の工程では依頼が減ります。仕向地の法規制に関わる取扱説明書や、契約・認証に使う文書は、引き続き専門家の確認が必要です。

用語集は何語くらい必要ですか

最初は、頻出する部品名・工程名・不良名で200〜300語程度から始め、確認で修正した訳語を追加していきます。最初から網羅を目指すと完成しません。

逆翻訳で誤訳はすべて見つかりますか

すべては見つかりません。逆翻訳は大きな意味の取り違えを見つけるのに有効ですが、訳語の微妙なずれは残ります。重要な文書は対訳での確認と組み合わせてください。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。