利用は広がったが、利益への効果は増えていない
McKinseyは2026年8月25日、年次調査「The state of AI in 2026」を公表しました。2026年5〜6月に97か国の1,719人を対象に実施したもので、AIの利用状況と経営への効果を経年で追える代表的な調査です。
2026年版の主な数字は次のとおりです。
このほか、約9割がAIを定常的に利用し、AIエージェントをスケールしているのは全体で約2割でした。32%はエージェント型コーディングツールで内製できたためにソフトウェア購入を見送った経験があり、約20%はトークンなどのAI運用コストが利用を制約したと答えています。
「スケール44%」と「EBIT効果37%」のずれ
全社でAIがスケールしていると答えた企業は38%から44%に増えました。大企業のAIエージェントのスケールも27%から40%へ大きく伸びています。それにもかかわらず、EBIT(利払い・税引き前利益)への効果を報告した企業は37%で横ばいでした。McKinseyが「AIハイパフォーマー」と呼ぶ、AIから大きな利益を得ている企業も約6%で変わっていません。
この結果は、AIを広く使うことと、AIで利益を出すことが別の問題であることを示しています。考えられる理由は次のとおりです(推測を含む)。
- 使われ方が業務効率の改善にとどまり、売上やコスト構造の変化まで届いていない
- 削減した作業時間が、他の付加価値業務や人員配置に振り向けられていない
- AIの運用コスト(トークン費用、インフラ、保守)が効果を相殺している
3つ目については、約20%がトークン費用などのAI運用コストが利用を制約したと答えており、裏づけがあります。生成AIは使うほど従量課金が増えるため、利用が広がるほど費用対効果の管理が必要になります。
先端製造業ではサプライチェーンと製造プロセスでエージェントを利用
同調査は、先端製造(自動車・航空宇宙・半導体)について、AIエージェントを主にサプライチェーン・在庫管理と製造プロセスで使っていると報告しています。一方で、製造で人員減を報告した割合は、2025年時点の予測の約半分にとどまりました。
製造業の経営層が1年前に想定していたほどには、AIが製造の作業を置き換えていないということです。これは、Deloitteが作業時間の81%超は人間主導で残ると分析した結果とも整合します(Deloitte 2026製造業見通し)。
「内製でソフト購入を見送った」32%の意味
32%がエージェント型コーディングツールで内製できたためにソフトウェア購入を見送った経験があるという数字は、製造業のIT部門にも関係します。以前なら小さなパッケージを買っていた業務(集計、帳票、簡易な可視化)を、社内でAIを使って作れるようになっています。
ただし、AIで作ったツールにも保守・セキュリティ・引き継ぎの費用がかかります。MESや品質システムのデータを読む小さなツールが部署ごとに乱立すると、データの定義が部署ごとにずれ、後から統合する費用が大きくなります。作る判断をするときは、データの読み出し口とマスタを共通にしておくことが前提です(MIT「生成AIの95%失敗」報告も参照)。
製造業が見直すべき3つの点
- 効果の測定単位を工程KPIにする:「◯時間削減」ではなく、削減した時間が何に使われ、どのKPIが変わったかまで追います。設計方法はAI導入のKPI設定で扱っています
- 運用コストを最初から見積もる:トークン費用、推論インフラ、モデル更新の費用を、PoCの段階から年額で試算します。利用者が増えたときの費用の伸び方も確認します
- 業務の流れを変える前提で設計する:既存の業務にAIを「足す」だけでは、効果は個人の作業時間の短縮にとどまります。承認の段数、検査の抜き取り方、保全の計画方法など、業務の流れ自体を変えるところまで設計に入れます
よくある質問
McKinseyのState of AIは製造業だけの調査ですか?
全産業の調査です。97か国1,719人が対象で、製造業については先端製造(自動車・航空宇宙・半導体)のエージェント利用領域などが部分的に示されています。製造業全体の数字として引用する場合は、全産業の数字であることを明記します。
EBIT効果37%は高いのですか、低いのですか?
約4割の企業がAIによる利益への効果を報告しているという意味では低くありませんが、前年から増えていない点が重要です。利用が広がっているのに効果を報告する企業が増えていないため、利用の拡大が自動的に利益につながるわけではないと読めます。
