2つの発表に共通する「役割分担」の設計

安川電機は2026年7月に、フィジカルAIに関する2つの発表を行いました。どちらも、AIとロボットの役割を明確に分ける設計になっています。

発表日付相手AIが担うことロボットが担うこと
エージェンティック・ロボットシステム2026年7月15日Google DeepMind(Gemini Robotics ER 1.6)何をすべきか(作業の理解と計画)どう動くか(MOTOMAN NEXTの動作)
柔軟物ハンドリングシステムの実証2026年7月13日ソフトバンク柔軟物の扱い(VLA)既存ロボットシステム全体の制御

前者では生成AIが「何をすべきか」、MOTOMAN NEXTが「どう動くか」を担います。後者ではVLAを既存ロボットシステムの「一機能モジュール」として組み込んでいます。いずれも、AIにロボットのすべてを任せるのではなく、従来の制御の上に、あるいは一部にAIを置く構成です。

Gemini Robotics ERを上位の計画層に置きMOTOMAN NEXTが動作を担う構成と、既存ロボットシステムの一部にVLAモジュールを組み込む構成を並べた図 Google DeepMind連携(7月15日) Gemini Robotics ER 1.6「何をすべきか」 MOTOMAN NEXT「どう動くか」 生産管理システムへ発注情報を連携 ソフトバンク協業(7月13日) 既存ロボットシステム 従来の制御・安全機能 VLAモジュールひも・布・袋・ハーネス ソフトバンクGPUクラウドで開発
安川電機の2つの構成。AIを上位の計画層に置くか、一機能モジュールとして組み込むか。

Google DeepMind連携:ティーチング不要の仕分け

2026年7月15日の発表では、AIロボット「MOTOMAN NEXT」とGoogle DeepMindの「Gemini Robotics ER 1.6」を連携させた「エージェンティック・ロボットシステム」を開発したとしています。「この部品を仕分けて」程度の指示で、事前のティーチングなしに動作するとされています。

注目すべき点は2つあります。1つは、搬送中の落下などのエラーを認識してやり直す機能です。フィジカルAIは成功率が100%にならない前提で、失敗の検知と回復を組み込んでいます。もう1つは、部品が足りないときに生産管理システムへ発注情報を連携できる構成です。ロボットの判断が業務システムにつながる点で、MESや生産管理との連携を最初から想定しています。

提供時期は未発表です。ERの役割についてはGemini Robotics 2・ER 2とはで詳しく扱います。

ソフトバンク協業:柔軟物をVLAで扱う

安川電機とソフトバンクは2025年12月1日にフィジカルAIの社会実装に向けた協業開始を発表し、国際ロボット展(IREX 2025)で展示しました。2026年7月13日には、ソフトバンクのGPUクラウドを開発基盤にVLAを活用し、ひも、布、袋、ワイヤーハーネスといった柔軟物のハンドリングを実証したと発表しています。ワイヤーハーネスの箱詰めで安定した動作を確認したとしています。

柔軟物は、形が毎回変わるため、従来の教示やルールでは扱いにくい対象です。製造現場では、ハーネス、ケーブル、布、袋詰め部品などの工程に人手が残りやすく、VLAが最初に価値を出しやすい領域の1つです。

MOTOMAN NEXTの位置づけ

MOTOMAN NEXTは、安川電機が「自律判断型」とするAIロボットのシリーズです。このうち自律人協働ロボット「MOTOMAN NEXT-NHC12」は、日刊工業新聞社の「十大新製品賞」本賞を受賞しています(2026年2月発表)。同社は2026年8月には、変種変量生産に対応するAIロボットと協働ロボットの事例をテクニカルレポートで公開しています。

GTC 2026(2026年3月)では、安川電機はファナック、ABB Robotics、KUKAとともに、NVIDIA Omniverse/Isaacでの仮想コミッショニングと、ロボットコントローラーへのJetson採用を発表しています。また、国産マルチモーダル基盤モデルを開発するNoetraには、安川電機も出資しています。Google DeepMind、NVIDIA、ソフトバンク、国産モデルと、複数の基盤と並行して組む姿勢がうかがえます。

工場で使う場合の論点

安川電機の路線は、既存の産業ロボットとその安全機能を残したまま、AIを上位や一部に足すものです。工場の立場からは、既存のロボット資産や教育を活かせる点で導入しやすい路線と言えます。

2点目は、データ基盤の側から見て最も重要な点です。「この部品を仕分けて」という指示を毎回人が入力するのでは、作業の自動化は半分にとどまります。品番、仕分け先、数量をMESの作業指示から渡し、仕分けの実績を返す連携ができてはじめて、ラインの一部として機能します。部品不足時の発注連携が示されているのは、その方向を意識した設計と読めます。考え方はAIの推論結果をMESに書き戻すが参考になります。日本の他社の動きは日本のフィジカルAI勢力図にまとめています。

よくある質問

安川電機はヒューマノイドを開発していますか

本記事で参照した公式発表は、MOTOMAN NEXTなど産業ロボット・協働ロボットにAIを組み込む取り組みが中心です。ヒューマノイドの開発については、本記事の調査では一次情報を確認していません。

Gemini Robotics連携のシステムはいつ買えますか

2026年7月の発表時点で提供時期は未発表です。

柔軟物ハンドリングはどの業種で効きますか

ワイヤーハーネスを扱う自動車部品・電機、布や袋を扱う繊維・食品・物流などで、人手が残っている工程が対象になりえます。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。