日本の企業間データ連携はまだ少ない

企業間のデータ連携は、日本の製造業がAIやDXで欧米と差が開いている領域の1つです。IPAの「DX動向2025」によると、日本企業の75.1%は他社とのデータ連携・提供を行っていません。米国は19.8%、ドイツは27.0%でした。2026年版ものづくり白書も、企業間のデータ連携が2年前からほとんど進んでいないと指摘しています。

他社とのデータ連携・提供を行っていない日本企業
75.1%
IPA「DX動向2025」(2025年7月、全産業)
同・米国企業
19.8%
同上
同・ドイツ企業
27.0%
同上

連携が進まない理由は、仕組みの不足だけではありません。自社の工場データが製品やロットの単位で整理されていないため、出せるデータがない、出すために毎回手作業で集計している、という状況が多く見られます。企業間連携の議論は、自社のデータ基盤の議論と切り離せません。

企業間データ連携の仕組みの考え方

企業間のデータ連携には、大きく2つの型があります。

型仕組み長所課題
中央集約型参加企業がデータを共通のプラットフォームに預ける仕組みが単純機密データを預けることへの抵抗が大きい
分散型(データスペース)データは各社が持ち、必要なときに、合意した条件で相手に渡すデータ主権(自社のデータの使われ方を自社で決める)を守れる共通の規約・識別子・認証の仕組みが要る

ドイツの自動車業界を中心とするCatena-Xや、経済産業省が推進するウラノス・エコシステムは、いずれも後者の分散型の考え方に立つ取り組みとして知られています。対象の業界、技術仕様、参加の条件、提供されているユースケースは取り組みごとに違い、更新も続いているため、参加を検討する際は各取り組みの公式情報で最新の内容を確認してください。

最初に求められやすい2つのデータ

企業間で最初にやり取りされるデータは、多くの場合、次の2つです。どちらも、工場のデータが製品やロットの単位で整理されていないと出せません。

自社の工場データ基盤の上に、CO2とトレーサビリティのデータを作り、企業間連携の仕組みを通じて顧客に渡す構造 自社の工場データ基盤MESの系譜・部材投入・設備の電力・購買データ(製品・ロット単位で結合) CO2排出量製品単位のカーボンフットプリント トレーサビリティ部品ロット・製造履歴 企業間データ連携の仕組みCatena-X・ウラノス・エコシステム など
企業間データ連携で求められるデータは、自社の工場データを製品・ロット単位で整理した上に成り立つ。
  1. CO2排出量(カーボンフットプリント):製品1個あたりの排出量を出すには、設備ごとの電力使用量を、どの製品を作っていた時間かに配分する必要があります。MESの稼働実績と電力データの紐付けが前提で、方法は電力データとMES稼働実績を紐付けるで扱っています
  2. トレーサビリティ:部品の不具合が見つかったとき、どの完成品に使われたかを、サプライチェーンをまたいで辿るためのデータです。自社内で部材ロットから製品までの系譜が辿れることが前提で、考え方はトレーサビリティ×AIで扱っています

EUのデジタル製品パスポート(DPP)でも、製品単位の材料・工程・環境データが求められる方向にあり、企業間データ連携と同じ基盤が必要になります。詳しくはデジタル製品パスポート(DPP)と工場データを参照してください。

自社で準備しておくこと

企業間連携の仕組みに参加するかどうかにかかわらず、次の準備は自社の品質・省エネ・AIの取り組みにも役立ちます。

3は特に重要です。分散型のデータ連携は、データ主権を守る仕組みですが、何を出すかを決めるのは自社です。社内で出す範囲の基準がないと、顧客の要求のたびに個別に判断することになります。

AIとの関係で見ると、企業間連携で受け取るデータ(部品の品質データ、サプライヤーの工程データ)は、自社の品質予測や要因分析の入力にもなり得ます。部品のロットごとの検査値を受け取れれば、自社工程の不良との関係を分析できます。ただし、受け取ったデータの利用目的は契約で制限されることがあるため、AIの学習に使えるかは事前に確認します。

よくある質問

中小の部品メーカーも企業間データ連携に対応する必要がありますか?

顧客から求められるかどうかによります。自動車など一部の業界では、サプライチェーン全体でCO2やトレーサビリティのデータを集める動きがあり、Tier2以下の企業にも要求が届く可能性があります。要求が来たときに慌てないよう、製品単位でデータを引ける状態を作っておくことを勧めます。

データを出すと、自社のノウハウが漏れませんか?

分散型の仕組みでは、データを渡す相手と利用条件を自社で決められることが前提です。ただし、仕組みがあっても、出す項目を自社で絞らなければ情報は出ます。製造条件そのものではなく、要求された集計値(CO2排出量など)だけを出すといった線引きを社内で決めておきます。

どの仕組みに参加すべきかはどう決めればよいですか?

主要な顧客が採用している仕組みに合わせるのが基本です。複数の顧客が異なる仕組みを使う場合は、社内のデータは共通の形で持ち、出力の部分だけを仕組みごとに変換する構成にすると、二重の整備を避けられます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。