対策は進んだが、体制はまだない

2026年版ものづくり白書によると、経済安全保障の対策を講じている製造業者は55.6%で、2024年度の38.2%から増えました。対策の内訳は、情報管理・サイバーセキュリティの強化が30.7%、調達先の変更・多様化が27.2%、取引先の審査が15.5%、社内研修が12.8%です。一方、担当部署を新設した企業は2.0%にとどまり、「体制なし・都度対応」が37.9%で最も多くなっています。

経済安全保障の対策を講じている製造業者
55.6%
2026年版ものづくり白書(MONOist 2026年7月8日の報道による)
経済安全保障の担当部署を新設した企業
2.0%
同上
「体制なし・都度対応」の企業
37.9%
同上

経済産業省は2026年1月に「経済安全保障経営ガイドライン」を出しています。RIETIのセミナーでは、対応が「情報収集どまり」の企業が多く、収益性の低い企業ほど対応が難しいことが指摘されています。

AIの調達は、この流れの中で抜け落ちやすい領域です。部品や原材料の調達先は経済安全保障の観点で見直されても、クラウドのAIサービスは情報システム部門や現場の判断で契約され、データの保管国やモデルの出自が確認されないことが多いからです。

AIの調達基準に入れる5つの観点

AIサービスの5つの確認観点の階層 1 データ:どの国に保管・処理されるか 2 運営主体:どの国の法律の下で運営されるか 3 モデル:誰が開発し、どこから提供されるか 4 供給の継続性:提供停止・価格改定・買収のリスク 5 サポート:障害対応・保守を誰がどこから行うか
AIサービスの経済安全保障上の確認点。データ・運営・モデル・供給・サポートの5層で見る。
観点確認すること製造業での論点
1. データの保管・処理国入力データ、学習データ、ログが保存・処理される国とリージョン図面や工程条件が国外のサーバーで処理されるか
2. 運営主体サービスを運営する法人の国籍、データ提供を求める外国法の適用外国政府の要請でデータが開示される可能性
3. モデルの出自使っている基盤モデルの開発元、オープンモデルの場合の由来モデルの学習データや更新の管理を確認できるか
4. 供給の継続性サービス終了、価格改定、提供元の買収、輸出規制による提供停止工場の運用がそのAIに依存していると、止まったときの影響が大きい
5. サポートの所在障害対応や保守を行う拠点、遠隔アクセスの経路保守のための遠隔接続が工場ネットワークへの入口になる

観点1と2は、営業秘密の管理とも重なります。入力データが学習に使われるかどうかに加え、どの国の法律の下に置かれるかを確認します。営業秘密の観点は営業秘密・ノウハウを守るAI活用で扱っています。

観点4は見落とされやすいですが、産業データ基盤では買収による再編が続いています。SchneiderによるCogniteの買収発表(2026年6月)のように、提供元が変わると製品の方針や価格が変わる可能性があります。再編の動きは産業データ基盤の大型再編を参照してください。

国産・閉域の選択肢をどう評価するか

日本でも、製造業のデータ主権を意識した動きが出ています。経済産業省とNEDOはフィジカルAIを見据えた国産の基盤モデル開発を支援しており、ファナックや安川電機などの製造業も出資するNoetraが2026年7月に本格始動しました。富士通は自社のAIプラットフォームでソブリンクラウドへの対応を打ち出しています。欧米でも、AWSの顧客データセンター内の専用AI基盤や、Dassaultの主権クラウドなど、製造業の知的財産を理由とした「主権AI」が提供されています。

ただし、国産であること自体が安全性や性能を保証するわけではありません。5つの観点で確認したうえで、国産・閉域の選択肢を比較対象に入れる、という使い方が適切です。どのAIに図面を見せるかの論点は図面をどのAIに見せるかで、オンプレミスの構成はローカルLLM・オンプレ生成AIの4つの構成で扱っています。

調達プロセスへの組み込み方

  1. 情報区分ごとの基準を決める:極秘区分を扱うAIは観点1〜5すべてを必須、社外秘は1・2・4を必須、など
  2. ベンダーへの質問票に5つの観点を加える:既存のAIベンダー評価の質問リストに追加する
  3. 契約書で確認する:データの保管場所、変更時の通知、サービス終了時のデータ返却を契約条項に入れる
  4. 台帳で管理する:AI台帳に、データの保管国と運営主体の列を追加する
  5. 定期的に見直す:提供元の買収や規制の変更があったときに再評価する

よくある質問

海外のクラウドAIサービスは使わないほうがよいですか

一律に避ける必要はありません。日本リージョンでのデータ保管、学習利用の停止、契約上のデータ管理が確認できれば、多くの用途で使えます。極秘区分の情報を扱う用途に限って、国内の閉域環境やオンプレミスを検討するのが現実的です。

オープンソースのモデルなら出自の問題はありませんか

オープンソースでも、開発元や学習データの由来、ライセンスの条件は確認が必要です。自社の環境で動かせるため、データの保管の問題は解決しやすい一方、モデルの更新やセキュリティの管理は自社の責任になります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。